飯田リニア通信 更新:2025/04/25
4月24日のストップ・リニア!訴訟の控訴審の裁判後報告集会で「住民無視の飯田市政」というテーマで報告をしました。20分で話せとのことで、うまく話せるわけはないので、話す予定の内容を印刷物で配布しました。以下は、それをHTML化(一部訂正)して、一緒に写した(*)スライドを加えたものです。(* パワーポイントに入れ忘れたスライドもあったので補足しています)
歴史は繰り返す?リニア駅前広場 ~ リニア長野県駅周辺の状況
散らかしたままで終わってもらっては困る
昨年5月、中間駅のできる北条地区の自治会長のことば。駅工事での要対策土活用の反対署名をお願いにいった時、自治会長は、ともかくこのまま散らかしたままで終わってもらうことだけは困ると語った。
昨年3月29日に「第2回 リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議」でJR東海の社長が2027年名古屋開業は実現できないと認めて以来、JR東海は県内の各工区について、工事の完了時期が遅れることについて説明会を開いてきた。
新幹線の駅と地域の発展について詳しい地元の不動産鑑定士・寺沢秀文さんはリニア駅付近の公示地価の横ばいについて、「…まだ世界中のどこでも本格的な事業化がなされていない未知の交通機関に対する不安感、あるいは本当に開業出来るのか、開業しても本当に効果があるのか等の不透明感等」があると分析。また「リニアも来ず、これからまだしばらくは更地状態の続く、新駅周辺の地価をどのように判断するかは我々不動産鑑定士としても極めて難しい問題」(南信州新聞3月20・21日)と指摘。
「散らかしたままで」という言葉は、開業時期が分からないばかりか、開業できるのかさえあやしいと考える人が増えてきたから。
6.5ヘクタールの駅前整備計画が裏目に
原告で北条地区に住む大坪勇さん:
開業が10年以上伸びて駅前広場について、飯田市は計画が固まらない状態だ。開業前でも一部供用をするといっているが、困ってそういっているのだろう。開業しなければ、本来の利用方法はない。いろいろな案を出すが駄目だといわれている。特に木製の大屋根については、メンテナンスを地元住民にやらせるなどといい評判が悪い。6800人の利用客がある前提で、6.5ヘクタールの駅周辺整備計画を立てたことが裏目に出ている。飯田市の財政に重くのしかかっている。インフラの維持、たとえば上下水道の補修などに響いてくる。上下水道料金の値上げが心配。文化会館の建て替えどころでないし、福祉関係を切り詰めている。
2月27日、飯田市は市議会全協で、リニア駅周辺整備について約91億とみていた総事業費が約144~149億円にふくらむと説明。増加分についてJR東海に補填できないか相談を始めた。駅工事と関係なく工事が行える約3.8ヘクタール部分に駐車場やイベント広場を第1期として整備し2028年度から利用する方針。佐藤市長はJRの負担の仕方について協議したいと説明。JR東海の丹羽社長は4月11日の会見で、飯田市の申し出について3月からやり取りを始めたと述べた。
リニア駅、最初は郡部の高森町
移転対象の熊谷清人さん(原告)は:
リニアは最初は高森町を通るといわれていたのに、だんだん南のほうにズレてきて、北条にきた。だれがルートを動かしたのか、用地交渉の市職員などに聞いても、説明できない。JR東海は初めからこの位置に決まっていたという。広域連合の意向でルートがずらされたと思う。
飯田市長だった牧野光朗氏(在任期間:2004年10月~2020年10月)は南信州広域連合長と期成同盟会の会長だったので、飯田市長が動かしたという人もいる。
飯田市は一貫して、リニア駅の飯田線飯田駅への併設を主張してきた。飯田駅の貨物扱い用地を田中秀典市長(任期:1988年10月~2004年10月)時代の1990年に国鉄清算事業団からリニア開業後の開発のため購入している。2011年8月5日に配慮書が公表され、駅位置が高森町と公表され、飯田駅併設がかなわなかったことについて、牧野市長は「極めて遺憾」で「易々とは受け入れない」と発言。この態度に、地元選出の自民党県議が、県にはJR東海の案を受け入れるという一方で地元では駅併設を訴え続けていると批判、地元の南信州新聞はコラムで、遺憾だと「ほおを膨らませるだけでは、先方や近隣から相手にされない」具体的な対処について示すべきだと書いている。
当時の県民世論調査によれば飯田下伊那地域では、中間駅の位置について、JR東海が提案した高森町から座光寺などの「天竜川右岸平地部」が適当と思うが50%、飯田線飯田駅への併設が27.6%だった。住民の意識と市長らの主張とは違っていた。県全体では逆に、併設が28.3%で、右岸平地部が17.0%だった(信濃毎日新聞 2011年8月31日)。
牧野市長はねばったが…
2011年9月27日に方法書が公表されるまでに、期成同盟会は9月7日と13日の2回、JR東海東京支社に赴き飯田駅併設を訴えた。しかし、2回の会談で、併設は工事の困難、距離の延長、工費の増加などの説明、また、①飯田市の水源域は外す、②飯田線の存続、③リニア駅は飯田線に近接させる、④既存市街地との連携を考える。できるだけ近づける。⑤環境への配慮と地域の意見を十分聞き話し合う、⑥中間駅の負担について考える、という提案を受けて、JR東海のルート案を受け入れた。
飯田駅併設案は中心市街地だから移転対象が多数となる。JR東海は人家の少ない場所、工事のやり易い場所を選んだ。④は移転対象者を増やすことになる。飯田市は移転による住民の犠牲を考えてこなかった。
牧野市長のJR東海の提案受け入れを伝えた南信州新聞9月16日の1面コラムは「中心市街地の再生振興をとたきつけられた市民にとって、この決断には空しさが残るだろう。…駅併設はベストだが、無理筋であることは判っていた筈だ。…」と書いた。
駅周辺整備は飯田市の事業。リニアへの対応を広域連合で考えるのは、広域連合内でも関係ない自治体、関係があっても金がない自治体もある。高森町だけで駅前周辺整備などできないが、広域連合全体でといっても歩調は揃わない。特に併設できなかった飯田市は…。飯田市は困っているが、そもそも、リニア事業は当地域の身の丈にあったものではなかった。どこか端の方を通過させておけば良いという声もあった。リニア推進派でも冷めた見方もあった。また、そもそも中間駅の建設費用を最初地元負担としたJR東海に中間駅の利用者は眼中になかった。地域の指導者たちはリニアという交通機関の性格を理解し地元にとって被害の少ないルートを素直に受け入れるか、地域活性に資するところはないと拒否すべきだった。
JR東海はお殿様、
そこのけそこのけお馬が通る
現在のルートは飯田市の希望に沿ったものといえる。なのに、「JR東海はお殿様、そこのけそこのけお馬が通るで仕方ない」とは、座光寺地区の中河原団地で移転対象になった住民の声。中河原団地は、貯木場跡地を飯田市が県から払い下げを受け、市として始めて住宅団地として分譲をしたのが、田中市長時代の1990年の秋。25戸のうち20戸が移転対象に。この方の場合、坪12万6千円で購入した土地が9万8千円で手放したとのこと。なぜルートがずらされたのか気にする人が多くないことも事実だ。
現ルートは明り部の延長が約4.1㎞、JR東海が最初に提案したルートでは約3㎞。ルートや駅位置については、作りやすいところ、人家の少ないところというJR東海の選定基準は、住民には良心的だったといえなくもない。飯田市や広域連合が、水源や文化財と住民の立ち退きの犠牲を秤にかけて考えた形跡はない。そんな市が移転者の最後の1人まで寄り添うことはなかった。駅位置は自治体内の議論。住民の意向を聞くべきだったがそれはなかった。
大坪さんは:
まちづくり委員会(自治会)が利用された。飯田市は、先にまちづくり委員会の役員をなだめておいて推進してきた。住民への説明はそのあとだった。決まったこととして動いてきた。ルートを南へ移動させているころに、北条地区に、こちらへもってきて良いかというような話はなかった。水源や恒川遺跡に影響がでないようにという話をしていたが、そのことが我々に影響があるとは思わなかった。
4月13日告示の飯田市議会選挙は、立候補者が定数と同じで無投票に。無投票は1942年の第21回衆議院議員総選挙=大政翼賛選挙以来。信毎はリニアの開業の遅れが現職の不出馬が相次いだ要因と書いた。定数23のうち現職が13、新人が10だった。リニアをどう活用するかなど訴える立候補予定者は少なかった。
大坪さん:
北条は八つ裂きにされて、全体としてまとまれない。もうしょうがないことだが、自分のような高齢者に、北条をまとめて欲しいといってくる。87になるような者でなくて、これまでリニアを推進してきた人たちが反省してやるしかないだろうといっている。いまさらリニアに反対してきた人を引っ張り出すという。昔あった自治組織が壊れた、何をやっても北条はまとまらないだろう。
牧野市長は、2020年10月の選挙で、現市長の佐藤健氏(2011年5月~2019年3月副市長)に敗れた。
駅工事で要対策土を使用
中間駅の場所は、市街化している部分と農地が入り交ざっている地域。駅の東端に近い分岐装置の付近で国道と土曽川をまたぐ。2スパンでまたぐため3基の橋脚(スライド)が必要で、地下水位が高い場所なのでケーソン工法で基礎工事が行われる。JR東海は2022年秋にはケーソンの下部を掘削して発生した土砂をケーソンの中詰めに使うと説明。ところが2024年2月になって、中詰めには大鹿村内で保管している基準値を超えるヒ素を含む要対策土を使う計画に変更。住民グループが署名活動をし、使用しないように、JR東海、飯田市、長野県に要望した。1月27日に長野県が、JR東海の保全計画に対して助言を送付。助言の内容は現地の発生土を使用すべきが基本とするもので、自然災害に対する基礎の構造の不安や、この場所に要対策土を置かざるを得ない理由が不明確なことを指摘する内容だった。長野県は、送付の発表のプレスリリースで、構造について十二分の対策が取られていることを県としてチェックしたと説明。これは建設部リニア整備推進局によるものだった。地元紙は、助言の内容として、「要対策土について『本来は当初計画通り、現地発生土の使用が好ましいと考えられる』としながらも、橋脚基礎部に関して『構造的に十二分な対策が取られていることをチェックしている』とした。」(南信州新聞)が助言そのものの内容と矛盾する。JR東海は今後の住民説明会で構造については県のお墨付きをいただいたと説明する可能性がある。
JR東海は、山岳トンネルは土被りが大きく、要対策土の発生量を厳密に予測することができないこと、公共事業での活用先もなかなか見つからないことを理由としている。事業全体の計画の時点で、発生量も活用できる量の予測もできないのであれば、そのような山岳トンネルは掘るなというべきだ。
新聞の報道にもかかわらず、飯田市の幹部は助言、さらの先立つ環境影響評価技術委員会の議論を真剣に受け止めているが、持ち込むなと言えるかどうかは分からない。
飯田市は、リニア駅併設を見据え、飯田線飯田駅の貨物扱い跡地を1990年に購入。以来、月極駐車場とコイン駐車場、広場(アイパーク)として使用してきたが、併設は実現せず、土地の価値が約7分の一に下落してしまった。今回のリニア駅前広場も同じ運命を辿るのか? それでも旧市街地で在来線の駅前の駐車場と広場はそれなり役にたっている。リニアが来ないリニア駅前広場に人が集まる理由はない。
JR東海の要対策土についての考え方
JR東海の要対策土の処分・活用の方針は場当たり的
“「中央新幹線長野県駅(仮称)新設工事における環境保全について」に対する県の助言と事業者の対応方針”で次のように述べている。
・・・ 中央新幹線事業における山岳トンネル区間は、土被り(トンネル天端から地 表面までの距離)の大きさが数百~千m級という地表から非常に深い位置を掘 削するという点から、事前の厳密な要対策土の発生量予測が困難であり、要対 策土の活用については工事の進捗に合わせて活用方を検討せざるを得ないと考 えています。 要対策土の活用については、かねてより、当社事業用地内(中央新幹線事 業)での活用の検討に加えて、長野県をはじめ各自治体へもご相談の上、公共 事業等での活用について検討を重ねてきたものの、現時点(令和7年3月時 点)でも、要対策土の全発生量に相当する活用先は未だ見いだせていない状況 です。 土曽川橋りょうケーソン基礎内の中詰め材(約0.5万m3)については当初、現 地掘削発生土を活用する計画であったものの、先に述べたように、今後の要対 策土の発生量予測が困難であり、活用先が見いだせていない状況を踏まえ、中 詰め材を要対策土に置き換えることができるか検討してきました。「土壌汚染 対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第3.1版)」に基づ く「原位置封じ込め措置」に示されている構造と土曽川橋りょうのケーソン基 礎の構造等を比較し、学識者からも意見を伺うことで、中詰め材に要対策土を 活用することの環境安全性を十分確保できるとの結論に至りました。 ・・・
JR東海の見解は、人の住む地域に置くべきないこと、土は移動すべきでないという環境を考える上で重要な点を無視している。
要対策土の活用先は限定される
JR東海は自社用地である小渋川変電所の造成工事について、要対策土を擁壁部分に使うが、検討したが盛土の内部には使えないと判断。公共事業での活用先も限定されることを自ら示した。
「中央新幹線南アルプストンネル新設(長野工区)工事における環境保全について(2025年2月26日更新)」の86~87ページ
…小渋川変電所では、変電所造成工事の盛土材及び擁壁の内部材に南アルプストンネル(長野工区)の要対策土を活用することを見据え、それぞれのポイントについて検討を実施した。なお小渋川変電所の盛土材での活用については、建屋や電気設備の基礎が盛土内に必要となることから、現地盤よりも下を掘削し、地下水位までの限られた深さの中で不溶化処理した要対策土を活用する計画であった。(p86)
…これらの試験結果を踏まえ、今回は小渋川変電所の擁壁の内部材に要対策土を約10,000㎥活用する計画とした。なお、盛土材への活用については、いずれの試験においても基準値及び目標値を満足する試験結果が得られたものの、小渋川変電所においては、建屋や電気設備の基礎や杭が必要になり、この基礎や杭等の施工により、不溶化処理の効果を損なう可能性があるため、活用を見送ることとした。…(p87)