飯田リニア通信 更新:2025/09/01、2025/09/06 注6を追記、「用語について」に補足。
署名のお願い:水道の水源地にヒ素入り残土をおくな!
リニア中央新幹線の建設を進めているJR東海が、トンネル工事で出てきたヒ素など有害な重金属が混じった土砂を、村の水道の水源地の谷に埋めようとしています(用語について)。
長野県下伊那郡豊丘村の水道の水源はほとんど地下水にたよっています。奥山に降った雨は地下にしみこんでやがて水道水を汲み上げる井戸にとどきます。豊丘村の地質の特徴によるものです(*1)。
(「平成17年度硝酸性窒素総合対策モデル事業
(長野県豊丘村における硝酸性窒素対策検討調査)報告書」の「2.地域の概況」の3/4 のp14 より)
数十年前に村内の畑に施した肥料の窒素分が水道水を汚染しました。調査の結果分かった地質の特徴から、村民は肥料のやり方などを工夫したりして汚染を減らす努力をしてきました。
JR東海が、有害な土砂を処分しようとしているのは、村の奥山である本山(ほんやま)という場所で、水源涵養保安林の指定(*2)がありました。もともと、普通のトンネルから出てくる残土を約130万立方メートル処分する計画で、有害な残土は持ち込まないとJR東海は説明していた(*3)のに、方針を変えたのです。
JR東海は安全対策は十分すると説明していますが、人が造る施設である以上は、いつかは壊れます。そしてヒ素などが地中にしみ込み地下水を汚染します。その時もこの村の暮らしは続いているのです(*4)。
安全な水は人の権利であり、水は人類共通の財産です(*5)。
JR東海は、これまで、長野県内で出てきた有害な残土について、そのうち3700㎥について専門の処分業者の所に運び処理をしました。このことを地元の住民には説明をしませんでした。将来、水を汚染する危険性のある場所にわざわざ処分することは、費用の節約としか思えず、決して許されるものではありません。
この本山の谷の所有者は本山地縁団体という団体です。JR東海の説明を聞いただけで役員たちは受け入れる方針を決めています。本当なら、役員たちは、環境の専門家の意見、つまり環境影響評価技術委員会の審議を聞いてから判断すれば良いのになぜか急いでいます。
村も、水道水の安全を守るのは村の仕事であるのに、村長はヒ素が出たらダムを造ってその水で薄めれば良いなどと乱暴な発言をしています(*6)。
長野県環境影響評価技術委員会が、人の住む場所にヒ素などを含む残土を置くべきでないと厳しく指摘をしたのに、また住民の反対があったのに、JR東海は、リニア長野県駅の一部となる土曽川橋梁の橋脚の基礎の中詰め土としてヒ素を含む残土を使用しました。
また、大鹿村では、小渋川の川岸に建設する自社の変電所の造成工事でも重金属類を含む有害残土を使う計画です。
飯田市内、豊丘村、大鹿村での、有害な残土の使用が、沿線各地での有害残土を使うさきがけとなることが心配です。お金をかければ適正な処理が出来るのですから、誰もが安心できる形で始末をつけるべきです。
住民の「豊丘村の水を守る会」は、本山へのヒ素入り有害残土の持ち込みをやめさせるための署名運動を始めました。多くの方たちの協力をお願いします。
※ 署名用紙は以下からダウンロードして印刷してください。
「飯田リニアの会」(下記、住所)まで郵送していただければ、「豊丘村の水を守る会」に渡します。恐れ入りますが、送料はご負担願います。
〒399-3103 長野県下伊那郡高森町下市田2974-3 飯田リニアを考える会・事務局
(メールアドレス)
◆ ◆ ◆
〇 用語について:JR東海は「残土置場」を「発生土置き場」と、私たちが「ヒ素など有害な重金属が混じった土砂」とか「有害残土」と呼ぶものを「要対策土」(「区分土」、「要対土」などもあり)と、そういう用語を用いています。 JR東海は本山残土置き場に要対策土を埋めることを「活用」するのだと説明しています。多くの人は、そういうのは「処分」っていうんじゃないのと考えます。本山の残土置き場は水源涵養保安林の指定があったので、残土置き場にするにはその指定を解除するように林野庁に求めなければなりませんでした。結果的には、2020年12月に指定は解除されたのですが、それを公表した『官報 第401号』に、解除の理由として「鉄道用地とするため」とされていました。ただの残土捨て場なのに。いま、JR東海が要対策土を「活用」するという言葉を使えるのは、「鉄道用地」を造成するという文書の上だけの目的があるからといえるのかも知れません。しかし、そういうことは、コトバをこわすことになると思います。
〇 *1 豊丘村の地質の特殊性と硝酸性窒素汚染については次の資料があります。「地質の特徴」というのは、「そもそも村の土地のできかた(成り立ち)がそうなっているから」という意味で、「地形のようすや、地面の中にどんな土や岩石がどんなふうにあるのか」という特徴ともいえます。
〇 *2 JR東海の保安林指定解除の申請について2020年6月2日に飯田市内で長野県森林審議会保全部会が行われました。傍聴者への配布資料のなかに、解除予定保安林の概要について書いた部分がありました。
(資料2:森林審議会保全部会資料 保安林の解除について (諮問) より) 「水道水源は、…天竜川沿いの地下水でまかなわれてる」とありますが、今の時点なら、その地下水は奥山から流れているので「下流域の生活用水・農業用水等 を確保する」ために水源涵養保安林の指定は解除すべきでなかったといえるでしょう。下の注*3のJR東海の保全計画は2019年に公表されています。2020年の森林審議会で要対策土を埋めると説明した場合、保安林指定の解除はできたでしょうか。
〇 *3 JR東海は最初は有害な残土は本山には持ちこまないと「豊丘村内 発生土置き場(本山)における環境保全について (2019年8月、2021年6月21日差替) 」で以下のように説明しています。
〇 *4 JR東海は5月21日に豊丘村内で村民対象の説明会を開きました。漏れて人が飲んだとしてもほとんど影響がないといった誤解を与えるような説明もありました。有害物を含む残土に不溶化という処理をしてシートにくるんで埋めるので大丈夫といいつつ、漏れた場合に備え水槽を設けるなど説明していますが、これらの方策がいつまで有効なのかその期間については、住民のくらしが続いていく、何百年という長さからいえば、ほとんど比べ物にならないはずです。
なお、「配布資料12」の屋外暴露試験で試験する要対策土に降り注いだ雨の水素イオン指数(PH)は「7」であったとJR東海は説明しています。一番近隣である飯田の2009年~2024年の雨のPHは5.4~4.9ですから、JR東海の説明はなにか間違ったところがあるのか、複数の説明担当者の科学的な常識が低いかのどちらか。配布資料は触れていない点でもう一つ:不溶化処理をしたあとで埋め立てるのでローラーで締め固める時に石は割れて、不溶化されていない新鮮な部分があらわれるのではという質問に対して、その点も考慮した暴露試験とJR東海は説明しました。この規模の暴露試験ではるかに多量の残土(1.5万㎥)について予測が出来るのか疑問です。
〇 *5 「水が人類共通の財産であることを再認識し、水が健全に循環し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、健全な水循環を維持し、又は回復するための施策を包括的に推進していくことが不可欠である」(「水循環基本法」前文)、「水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならない」(同、第3条の2)。水循環法については、「水循環基本法制定と今後の水行政について」(全日本自治団体労働組合)。
〇 *6 8月28日の豊丘村議会の全員協議会で、下平村長は挨拶の中で、村の水道水源の井戸について亜硝酸窒素の濃度が基準値を超えるところがあって、ほかの井戸の良質な水と混ぜて水道水として供給しているが、本山に埋めたヒ素入り残土から漏れて水道水から検出された場合は、以前、郷士沢(ごうしざわ)にダムを造る計画があったのが、田中康夫知事の「脱ダム宣言」(2001年2月20日)で中止(2004年3月30日に中止が確定)になったけれど、将来のことを考えると、郷士沢ダムは必要になってくるのではと思うと話しました。ヒ素がでたなら薄めれば良い、あるいは別の水源を見つければ良いという考えと思われます。注釈「*01」で紹介した「下伊那郡豊丘村の地下水資源と自然史との関わり」の 38ページ、「6.地下水資源の価値と保全」は、豊丘村の水について「涵養から流出に至る過程で,生活場のすぐ脇において,地下水が地下浅所にあって安定的に供給され続けるという自然の仕組みはきわめて貴重なものである.震災等の大規模災害時に使える水源としてみた場合でも,これほど安心できる備えはない … 地下水という再生可能な自然資源を次世代に残すためには,資源を生み出した自然史的背景を知ると同時に,その恵みに感謝しながら賢明に利用し続けてゆくことが重要」としています。豊丘村の水の問題についての科学的な調査に基づいての指摘でしょう。水道水の硝酸性窒素汚染は村の歴史的な経験です。下平村長の発言は、それらを無視するものといえます。
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