飯田リニア通信 更新:2023/05/05

風越山トンネルの工事説明会

 3月16日から4月11日にかけて、JR東海と鉄道運輸機構による風越山トンネル(風越山トンネルとは)の上郷工区の工事説明会が行われました。工事が行われるのは飯田市上郷地区です。3月16日は上郷黒田地区対象、17日は上郷地区全体対象、22日は上郷下黒田北対象、4月11日は上郷下黒田東対象に行われました。各説明会場の説明内容は基本的に同じものでした。

 上郷工区の説明会について、最初、JR東海は、下黒田東地区のまちづくり委員会の役員に対して説明するだけで済ます予定でした。「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」(以下「住民の会」)は、加入率が4割未満で全住民を代表しているわけでないまちづくり委員会の役員の集まりだけで説明するのはおかしいと指摘し、飯田市のリニア推進部も全住民に説明するよう働き掛けてきました。今回、上郷地区内で4回の説明会を行ったことは、「住民の会」の働きかけの結果といえます。説明会の案内状は上郷地区で別府以外の飯沼、黒田地区の全戸に郵送されたようです。また、今回の説明会では、住民を敵視していると批判を受けた、プラカードを持ち込むななど会場での制限事項を書いた貼り紙は貼ってありませんでした。

会場の壁に大型の地図が貼りだされる

 今回の説明会では、およそ誰の家の下でトンネルの掘削工事が行われるかがわかる地図が会場の壁に張り出され、配布資料の中にも縮刷版がありました。説明会の開始前、運輸機構の職員が地図の前で参加者に応対していましたが、好感の持てるものでした。「住民の会」が独自に住宅地図をもとに作成し3月11日の学習会で示した以外では初めてのことです。しかし、参加者からは、現在は無い建物があったり、もとになった地図が古いとの指摘がありました。この地図は2014年ころのJR東海がアセスメントで公表した図ですが、もとになった国土地理院の地図はそれよりさらに古い時期に測量されたものなのであたりまえですね。以後の新築もあり、この地図では誰の家の下を通るのかは明確にはわかりません。

JR東海、事前の家屋調査の方針を示す ~地盤地下の可能性はある~

 東京調布の外環道の陥没事故からトンネル工事の地上への影響を心配した「住民の会」はこれまで、工事前にトンネル上部の一定幅の範囲の家屋調査を行うよう、JR東海に求めてきました。また、飯田市からも求めるよう要請してきました。JR東海は今回、都市部と同じように事前に希望者に対して家屋調査をすると説明をしました。調査対象の範囲はトンネル直上の左右にそれぞれ47mです。家屋調査については至急に対象者に通知すべきとの意見がでましたが、努力すると述べるだけで具体的な期日については回答はありませんでした。

騒音、振動、水枯れの心配は払拭できない

 シールド工法の騒音についての質問に、耳に聞こえる騒音は少ないとの回答でしたが、シールドマシンの発進坑には防音ハウスを設置するようになっています。

 古い建築で、今の家とは建て方が違う家に住んでいるので、工事の振動で壊れはしないかと心配との発言をされた方もいました。

 上黒田地区では、果樹園、生活用水に使う井戸水が枯れないか心配する声がありました。JR東海は枯れた時は対応すると回答しましたが具体的な対応策は示しませんでした。伊那山地トンネルの戸中・壬生沢工区のように、渇水したときの代替水源を確保すべきです。

工事車両の運行は?

 土曽川沿いの市道宮崎唐洞線の交通量が2025年度以降、1日往復140台以上から台数増え期間が延びるとの説明に、具体的な台数と期間が不明確との指摘がありました。今後説明会を開き説明していくとの回答でした。

 トンネル残土の運搬車は西保育園の横、上郷小学校や高陵中学校の通学路を通過します。西保育園の園児の送迎時間や園児の散歩、行事等に影響が心配です。

 このルートでは県道の宮崎交差点を通過することになりますが、県道も狭く坂の戸中、交差する市道もカーブの出口が交差点、対抗する道路は急勾配と、信号はあっても、現状でも危険性の高い交差点です。

住民の権利を無視し、分断を図るJR東海

 誰の家の下を通るのか明確になっていないが、トンネル上部の土地の所有者に対してどう説明をするのかとの質問に、JR東海は個別に訪問し丁寧に説明をするとしました。

 「住民の会」は工事前に、地上の地権者から工事の承諾を得るように求めてきました。民法に規定された所有権に関わる問題です。他人の土地の地下に承諾をもらわずに無断でトンネルを掘ることは違法です。今回、地権者と工事の承諾について書類をつくるのかと具体的に質問をしました。白黒のはっきりした答えができる質問です。しかし、JR東海は、土地所有者を個別に訪問して丁寧に説明すると繰り返すだけでした。公の説明会(報道へは非公開)で工事の承諾をきちんと取るのかどうか明確にせず、個別訪問で丁寧に説明するとしか答えないのは、住民の権利を無視し、地域の住民を分断するものです。

区分地上権を30mで区切る根拠はない

 JR東海はトンネル工事で30mより深い部分については区分地上権は設定しないと説明してきました。住宅地や農地などがある風越山トンネル上部のほぼ全線で区分地上権を設定しないことになります。JR東海は、これまで30mという数字は整備新幹線で従来行われてきたと説明してきましたが、「住民の会」は、北陸新幹線の高丘トンネルで40m、首都高速道路会社が横浜環状北線では60mの深さで区分地上権を設定した例をあげて、30mの根拠の曖昧さを指摘しました。また、鉄道の運行の安全を確保するためにも区分地上権を設定し、登記することは鉄道事業者としてやるべきことではないかとの指摘をしています。

陥没事故を起こした調布と同じ泥土圧式のシールド工法

 調布市で陥没事故を起こした外環道のシールド工事は、泥土圧式でした。JR東海は風越山トンネルも泥土圧式のシールド工法で行うと説明。泥土圧式はベントナイトと呼ばれる粘土のようなものを掘削した岩石に加えて切羽に圧力を加える工法です。ベントナイトを使用した場合の残土は産業廃棄物です。ヤード内で残土とベントナイトを分離しないと一般のトンネル残土のような処分はできません。外環道ではベントナイトの代わりに後処理が不要のシェービングクリーム状の気泡剤が使われていました。土曽川そばのヤード内でどんな処理をするかといった説明はありませんでした。なお、東京地裁は陥没事故が起きた外環道のトンネルについて気泡剤を使用した工事を禁止しました。

大きなトンネルのシールド工法技術は未完成?

 リニア新幹線のシールドトンネル工事で、北品川と春日井の事故について説明を求める質問がありました。この質問については、長野県担当部長は、この事故は「初期掘進」をしていて起きたことだが、直接関与していたのでないので詳しいことは分からないと答えました。質問者は、これから同じシールド工法をやろうとしている責任者なのに無責任ではないかと指摘しました。

 北品川と春日井では、JR東海は「調査掘進」をしていたはずです。トンネル工事の一般向け解説書(*)は次のように書いています。シールドマシンというのは、一番先端のカッター部分だけでは本格的な掘削ができず、フルセットでは全長が約100mに達するような長さ。シールドマシンを地中におろすための立坑の直径は約30mほどしかありませんから、まずカッター部分を地中に入れ、とりあえず掘削を始めて、いくつもの台車に分けた機械を順番に地中に降ろしていくそうです。機械全体が地中に入るまでの間を「初期掘進」というのだそうです。つまり、リニア新幹線については、どの坑口についても、最初の段階でつまずてしまったということなのです。住宅などへの振動などの影響を調べるための「調査掘進」とJR東海は説明していますが、実際に地下で行われていることは、シールドマシンを地下に入れる作業なのです。それに失敗している。

* 『最新!トンネル工法の "なぜ" を科学する』(大成建設「トンネル」研究プロジェクトチーム著、アーク出版、2014年1月)のp74~75。

住民に寄り添った丁寧な説明とはいえない

 「住民の会」の参加者によれば、今回の説明会でも、JR東海の説明には、質問者の求める答えについてはぐらかすようなところがありました。名古屋まででも全長約286キロの幹線を建設する大事業であるのに、認可にあたり、国交大臣も求めていた、住民の理解を得ようという基本姿勢がありません。飯田市や長野県はこのような事業者と市民、県民のと間に立って、市民、県民に寄り添うような施策をJR東海に対してつねに求めるべきです。「住民の会」は今後もJR東海、市役所等に意見を述べ、要望を届けていきたいと述べています。


[ 風越山トンネルとは ] リニア新幹線の風越山トンネル(全長約5.6㎞)は、名古屋よりから黒田工区(2.3㎞)と上郷工区(3.3㎞)となります。黒田工区はNATM工法(標準工法)で、上郷工区はルート発表時はNATM工法で行う予定でしたが、水資源への影響が少ないという理由で、JR東海はシールド工法に変更をしました。変更の検討のために16カ所の垂直ボーリングが行われました。巨石がシールド工法では問題になりますが、巨石はあっても風化が進んでいるので問題にはならないだろうというのがJR東海の判断です。なお、上郷工区の工事期間は、運輸機構が発注予測を公表した時点では80カ月だったものが入札時には65カ月に短縮されています。