飯田リニア通信 更新:2021/08/12

飯田市長に「リニア計画に関連して要望書」、8月11日

 飯田リニアを考える会は、8月11日に、飯田市の佐藤市長に「リニア計画に関連して要望書」を提出しました。新型コロナ感染拡大の状況を考えて、市役所受付窓口に提出しました。

「リニア計画に関連して要望書」(PDF)

同時提出の参考資料

資料1:『日経』2021年7月20日記事 "多様な働き方できる自治体、「10万人都市」上位 本社・東大調査、首位は石川・小松"

資料2:中間駅の利用客数の予測

 環境省の研究事業「環境経済の政策 研究」で採択された研究の一つである「地方公共団体における地球温暖化対策実行計画等の実施に伴う環境・経済・社会への影響分析」(研究代表者:神戸大学・小池淳司)の説明資料(2/4)の36ページ「リニア新幹線整備の交通需要予測」。

image
(環境省 > 環境経済情報ポータルサイト > 環境経済の調査・研究情報)


(HTML版)

飯田市長・佐藤健様

リニア計画に関連して要望書

2021年 8月 11日

飯田リニアを考える会

代表・米山義盛
事務局・春日昌夫
連絡先:下伊那郡高森町下市田2974-3
mail@nolineariida.sakura.ne.jp

 新型コロナ感染拡大の困難の中、飯田市長としてまた南信州広域連合長として、飯田市民と伊那谷住民のためのご尽力に感謝いたします。

 リニア計画は、南アルプストンネルの静岡工区でトンネル掘削着工の見通しがいまだに不明です。静岡工区が完成できなければ、その技術的特性からリニア新幹線は意味をなしません。しかし、JR東海は他地域では予定通りに工事を進めると説明しています。ルートに変更をという声もでていますが、JR東海はルート変更はあり得ないと主張しています。

 実際には静岡以外の地域でもリニア計画は初期の計画通りに進んでいるわけではありません。特に、最難関といわれる南アルプストンネルについて、長野工区では、トンネルの掘削のペースは、当初1か月あたり約60m掘削出来ると見込んでいたようですが、現状では約35m程度です。つまり、2015年に着工し、除山斜坑口から静岡工区境までの約7㎞を10年で掘り、ガイドウェイの設置や試運転など仕上げに2年かけて2027年開業という予定だったはずです。ところが、トンネル掘削の開始は2017年の半ば以降となり、さらに掘削のペースが3分の2程度なのです。2017年を起点とすれば開業は2034年以後になる可能性もあります。山梨工区でも先進坑では1か月あたり約40mほどの掘削のペースです。

 長野工区では、残土搬出のための小渋川斜坑口と釜沢斜坑口との間の先進坑の工事が遅れています。静岡工区に近い除山斜坑口と釜沢斜坑口のある釜沢地区からは、県道赤石公園線の道路事情が悪く残土搬出ができません。残土の仮置き場のゆとりが少ないので、釜沢地区ではあとせいぜい400m程度しかトンネルは掘れないとの予測も可能です。小渋川斜坑口と釜沢斜坑口の間の先進坑1600mの工事の遅れで長野工区全体の工事が遅れる可能性があります。この先進坑はこれまで800mの掘削に約1年10か月を要しており、JR東海は年内に残り800mを掘るといっていますが、現状の掘削のペースを約4倍にする必要があります。現状から考えれば、到底無理な見込みです。昨年12月にJR東海の宇野副社長が静岡工区の工事が7年8か月と説明したのと同じで、工事の現状を反映したものではなく希望的観測に基づいたものです。

 リニア計画で新たに掘削するトンネルの延長は約211㎞です。そのうち掘削した本坑部分の長さは全体で約1.9㎞と1%にも達しない状況です。着工から既に6年です。現在そして今後の鉄道事業をとりまく状況は厳しく、リニア建設の前提であった東海道新幹線の収益は低迷を続けるでしょう。計画の中止を視野に入れるべき時期になったといえます。

 リニアが完成しない場合やルート変更の場合、どちらにしても駅周辺整備については、不要になるか、場所を含め大幅な変更をしなくてはならないはずです。すでに移転された市民もおられますが、リニアが来ない場合、なぜ移転しなければならなかったのかという気持ちは残るでしょう。JR東海が、静岡以外の地域では、予定どうり工事を進めると説明しているから、飯田市の進める関連の事業は進めると飯田市は説明しています。はたして、それで良いのでしょうか、リニア計画が頓挫した時にふりかって見た時、現在着々と進めていることが、そのほとんどすべてが無駄の積み重ねだったと言わなくてはならない可能性があります。

 磁気浮上式鉄道の開発の歴史の中で、JR東海のリニアの採用する超電導磁石を用いた誘導反発方式は過去のものです。常電導の磁気吸引方式の研究開発はドイツでは1920年台に始まり、その基本原理について1935年に特許が取得されました。戦後、進展した半導体技術の成果を取り入れて、1980年台後半に、ドイツはトランスラピッド(上海のリニアモータカー)を実用化しました。実は、ドイツではシーメンス社などが1970年頃から超電導誘導反発方式の開発を行いました。しかし、技術的、経済的な問題点から超電導誘導反発方式は放棄され、シーメンス社は常電導のトランスラピッドの開発グループに合流しました。超電導誘導反発方式の発祥の地、アメリカでも開発を手がけましたが完成に至ったとの話は聞きません。

 最近、中国中車が時速600㎞で運行できる5両編成の磁気浮上式列車を完成させたというニュースがありました。この列車は原理的にはトランスラピッド方式と同じ常電導の磁気吸引方式で、軌道その他の規格もトランスラピッドと共通する部分が多いものと思われます。JR東海のリニアは運行速度が時速500㎞ですから、100㎞/hも速度が上回ります。

 2004年から上海で営業運転をしているトランスラピッドは車体自体は運行速度500㎞/hであり、半径400mのカーブも浮上したままで通過できるという性能であり、冷凍機やヘリウム、磁気対策、補助車輪も不要であり、よりシンプルな軌道構造、消費電力も少ないなど、JR東海のリニアより優位にあると認めざるを得ません。

 リニアモーターカーが電動機である以上、固定子となる軌道と、通常の電動機の回転子にあたる車体との隙間であるエアギャップは少ない方が電動機としての効率が上がります。すなわち、ドイツは開発過程で、浮上量は少ないほど良いという知識を得たといえるでしょう。

 つまり、超電導リニアは、時速500km/h程度の高速で運行する磁気浮上式鉄道の開発では、トランスラピッドに大きく遅れをとったばかりでなく、いわば見当はずれの方向で開発が続けられたというほかありません。

 JR東海の超電導リニアの最大の欠点は、ほぼ直線の路線を走ることのみを念頭に開発された点です。このリニア計画は、実用路線というよりは、実験室の環境を、品川と名古屋方向に拡大延長したものであって、実用技術としてはまことに心細いものです。リニアの開発に直接関わった技術者の中に、鉄道の車輪にあたる超電導磁石は、鉄の車輪に比べ信頼性が低いので、列車に採用すべきでないと指摘する方もいます。

 世界が温暖化ガス削減に向かっている中で、世界の鉄道車両メーカーの関心はいかにクリーンな車両を開発するかという点にあります。ヨーロッパではすでに2016年ころから投入された新型の高速列車の最高速度は250㎞/hです。磁気浮上方式鉄道に将来性はないと言わざるを得ません。

 超電導リニアは、はたして夢の技術なのか、地域に利益をもたらすものなのか。住民の移転、地域社会の破壊、自然環境破壊など多大の犠牲を対価とするほどの価値があるものでしょうか。

 リニアは千載一隅のチャンスではなく、飯田下伊那の住民にとって、むしろリスクと考えるべきです。

 7月21日の『日本経済新聞』1面記事によれば、「各種都市データを集計し、多様な働き方が可能な特徴を点数化」したら「働く場としての中堅都市の潜在力が浮かんできた」として、そのランキングの第5位に飯田市が入っています。各種都市データの中には東京都への交通の便という項目はありません。本当にリニアは必要なのでしょうか?

 以下を要望します。

○ リニア計画の中止も視野に入れること。JR東海に、リニア工事計画の全体の見通しについて、中止の可能性も含め、速やかに明確にすることを求めること。

○ 松川工区の工事方法変更に伴い、斜坑が直下で掘削される妙琴マレットゴルフ場の安全性の確保について、JR東海に説明と対策を求めること。

○ 風越山トンネルはJR東海がいうような山岳部のトンネル工事ではなく市街地の地下の工事です。NATM工法でもシールド工法でもトンネル建設を達成しようとする技術であって、トンネル掘削の地上部への影響を軽減することを主眼とした技術ではありません。東京都調布市で起きたような地上部での振動問題や陥没事故などの心配があります。トンネルの通過位置を地上で把握して住民に周知すること。土地の所有権は地下にも及びます。地下をトンネルが通る土地のすべての地権者と用地交渉をすること。

○ リニア本線関連、駅周辺整備関連の移転交渉を、静岡県内の着工が決まるまで一時停止すること。

○ 下久堅小林の発生土置き場は、一帯が災害地形であること、盛り土の材料が風化しやすい花崗岩が主体であること、盛り土の直下に人家があることから、非常に危険性があるので、再検討を地権者とJR東海に促していただきたい。盛土後は土地を地権者に返すので、土砂災害が発生た場合の責任は第一義的には地権者あります。地域内に今後の紛争の種を播くことになります。盛り土した方が安全なのか、盛り土せずに適切な砂防対策をした方が安全なのか比較すれば後者が勝ります。県による残土処分地の照会の仕方は、盛土が崩壊した場合の責任の所在を不明確にしてきた部分があると思います。梨子沢災害の直後のことがあったにしても、南木曽町は最初処分地の候補地はないと報告しました。各自治体の判断で土石流災害の危険性のある残土の盛土を阻止できる可能性はあったのです。

○ 龍江の清水沢川の残土置場については、すでに地元住民から中止を求める要望が出ています。ぜひ聞き届けていただきたい。長野県に対して、候補地としての情報提供の撤回を求めます。

○ リニア駅の利用者予測6800人について、どのようなデータと手法に基づいて推計されたものなのか市民に分かりやすく説明すること。長野県の予測やJR東海の予測と数字が似ているからとか、長野県のデータを引用した形となるでは説明とはいえません。飯田市が推計を依頼した「計量計画研究所」による数字6950人をとらなかった理由の説明もありません。環境省の "環境経済の調査・研究情報" の 「採択 番号5」「地方公共団体における地球温暖化対策実行計画等の実施に伴う環境・経済・社会への影響分析(神戸大学・小池淳司)」では「交通モデルを用いたリニア新幹線各駅の乗降客数の予測値」として3418人という数字もあります。

以上