飯田リニア通信 更新:2021/07/16

リニア中央新絆線の工事残土処分について総点検を求める要望書

 7月3日に静岡県の熱海市で盛り土が原因の土石流が発生し、多数の犠牲者と行方不明者がでました。谷や沢はもともと自然がつくったものです。そこへ残土を積み上げることは、自然の摂理に反するものです。最大限の安全対策をしても、盛り土しないことに勝ることはありません。

 リニア新幹線沿線住民ネットワークは、国交省にリニア残土の総点検を求める要望書とリニア残土処分に関する資料を提出しました。


国土交通省大臣 赤羽一嘉様

リニア中央新絆線の工事残土処分について総点検を求める要望書

 7月3日、静岡県熱海市で集中豪雨が引き金になって大規模な土石流が発生し、多くの住宅が流れ流失した結果、多くの方が死傷するなど(亡くられた方10人、行方不明の方18人、家屋被書130戸=7月11日現在)甚大な被害が出ました。静岡県の調べによりますと、土石流の起点には5万立方メートルを超える盛り土があり、これが水で緩み崩落したものとみられています。

 被害を被つた市民の皆様に心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。

 赤羽大臣はすぐに全国5万1千か所の盛り土について総点検を行うことを表明されました。総力を挙げて点検をし、問題を早く見つけ対策を講じていただくようお願いします。

 私たちは、JR東海が建設を進めようとしているリニア中央新絆線の沿線住民を中心に作られたネットワーク組織です。2013年の結成以降、沿線各地で地下水、残土、生活被害、南アルプスの自然環境保護を中心に活動し、JR東海に対しリニアエ事の中止と事業の見直しを求めてまいりました。

 ご承知の通り、リニア計画5兆5千億円の巨費を投じ、品川・名古屋間286キロを2027年に開業するために、慎重であるべ書環境影評価を3年間で済ませ、2016年に国交大臣から工事実施計画(その1)の認可を受けました。

 リニア新幹線の1期工事は全区間の86%がトンネルであるため、工事によつて6千万立方メートルの建設発生上が排出されます。東京や神奈川の残土については港湾の理め立てに利用することで関係市と合意していますが、神奈川や山梨、静岡、長野、岐阜などの山間部では平地が限られているため、JR東海は大量の土砂を谷間に埋め立てたり、河川歎に積み上げたりするなどの無理な計画を自治体や住民に押し付けようとしています。

 このリニアエ事残土計画に対し、私たちは土石流や崩壊による二次災書が起きることを理由に反対をしてきました。また、一部では健康に有書な物質が残土に含まれていることがわかり、流出の際の健康被害を心配する声も上がっています。また、美しい自然環境の地域に残土がうず高くく積まれ、観光資源としての景観を損ねていることも事実です。

 残土処分計画を詳細に決めずに工事に突入したため、沿線各地ではリニア残土処分が自治体や住民の反発を招いています。

 リニア残土の処分は量が膨大であり、分散しても大規模な処分地が必要です。もし、熱海市をはじめ各地で起こつているような土石流や崩壊がリニア残土処分地で発生すれば被書は甚大なものになります。安全な対策を説明できずに残土を捨て置くことは最早許されません。

 私たちは、今回の熱海の事態を契機に、国交省がリニア中央新幹線の工事残土処分地や今後の処分計画について総点検を実施するよう強く要望します。

以上

2021年7月13日

リニア新幹線沿線住民ネットワーク
共同代表 天野捷一、川村晃生、片桐晴夫、原重雄


リニア工事残土の野放図な処分の現状と大規模な処分
予定計画について、政府と沿線各都県に総点検を求める

2021年7月10日 リニア新幹線沿線住民ネットワーク

静岡県熱海市の土石流や崩落で住宅流失と多数の死傷者

 7月3日午前、静岡県熱海市伊豆山を流れる二級河川逢初川で断続的に土石流が発生しました。土砂の幅は最大で120m、面積は72 万平方メートル、土砂量5 万5 千立方メートル とみられ、131 戸の住宅が被害を受け、このうち 70 棟余りが流出し、死者10 人行方不明者18 人(7 月11 日現在)という大規模災害となりました。土石流の起点は逢初川の河口からおよそ2 キロ付近で、起点にはおよそ5.4 万立方メートルの盛り土があり、断続的に続いた降雨水が土中にたまり、3 日に崩落、土石流となって川沿いの斜面を流れ下ったものとみられています。

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(写真は熱海市の土石流起点~静岡県撮影)

 起点の土地は小田原市の不動産管理業者が2005 年に10億円前後で購入し、別の土地整備事業で発生した残土を運び込んで盛り土したということです。そして2011 年に現在の所有者が購入したが、「危険な土地とは 知らなかった。購入後盛り土したことはない」と報道陣 に答えています。

 土石流の原因については静岡県が調査することになっており、盛り土が土石流の原因かどうか断定はできませんが、赤羽国土交通相は「全国的に盛り土総点検を行う」と言明し、これまで点検の対象だった面積3 千平方メートルの住宅以外の地域でも点検を行う方針を明らかにしました。

リニア残土を山梨や長野で谷間や河原、空地に大規模に山積み。土石流などの二次被害の怖れが

 私たちリニア沿線住民はリニア工事による建設発生土の処分について、①運搬車両による 騒音・振動・大気汚染、②残土処分地に山積みすることで南アルプスなどの自然環境や景観に重大な影響を与える、③重金属やウランを含む残土が放置される、そして、④谷を埋め立て、傾斜地や河原にうず高く積み上げることで崩壊や土石流などの二次被害を起こすなど問 題点を指摘していました。しかもリニアの場合、盛り土される残土量が膨大であり、熱海市と同じような状況で発生した場合、被害の規模は甚大なものになります。

 沿線各地のリニア残土をめぐる動きについて振り返ってみます。

 長野県のリニアのトンネル工事で発生する残土は、大鹿村で300 万立方メートル、豊丘村で225 万立法メートル、飯田市で180 万立法メートル、阿智村で70 万立法メートル、南木曽町で180 万立法メートルなど全体で960 万立法メートル以上。豊丘村小園地区では、50 万立方メートルの残土を谷筋に置く計画が提示されましたが、土石災害の危険があると住民が反対を表明し、2016 年6 月にJR 東海は計画を断念しました。また、南木曽町は土石流発生の多発地帯であるとしてリニア残土の村内の処分計画に積極的ではありません。

 大鹿村は険しい地形が多く村内での処分は困難なことから、JR 東海はトンネル残土を村内の複数の場所に仮置きをしています。村外の処分地がなかなか確定できないため、村民は置いたままになるのではと懸念しています。中川村や松川町では、谷埋めではなく、天竜川沿いの水田地域のかさ上げにトンネル残土を使用する計画があります。写真(下)は、小渋川の小渋ダム直下の河川敷に積まれた、リニアの残土運搬ルートとなる県道の改良工事の一貫として行われたトンネル工事の残土。リニアトンネルの残土とあわせ、県が恒久管理するという条件で、対岸の沢の埋立に使う計画。

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 山梨県では早川町の南アルプストンネルの準備工事で発生した残土600 万立方メートルを早川町内や沢の埋め立て、積み上げによって処分する予定になっており、早川町では処分地が見つらないために、春木川沿いの道路のわきに積み上げていく工事が始まっています。

 静岡県では、JR東海が大井川源流部に近い燕(つばくろ)沢の河川敷にリニア残土の処分場を計画しています、規模は長さ1 キロメートル、高さ70 メートルで360万立方メートルという巨大な残土の山を作ろうという計画です。上流の千枚岳東側では大崩落が起きており、もしさらに崩落が起これば土砂が谷に流れ込み、大井川にダムができるおそれがあると指摘されています。(下が燕沢の残土処分計画)

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 神奈川県ではリニア車両基地を建設するため、リニア残土360 万立方メートルを高さ30 メートルまで盛り土する計画も明らかになっています。

 また、相模原市緑区長竹で2250 頭の牛を飼育する目的で牧場を作る農場計画の申請があります。山中に100万立方メートルの建設発生土を運び込み盛り土をするこの計画はすでに環境影響評価手続きが行われています。環境影響評価準備書の説明会では地元の住民から、「大雨の際盛り土が滑り落ちるのではないか」という声も上がりました。

 この計画を見ても、盛り土に必要な膨大な残土の供給先はどこなのか明らかにされていませんが、この計画実施の調整役を果たしているのがゼネコンのF 社であり、F 社が2020 年にリニア津久井トンネルを受注していることから、農場計画はリニア残土処分地として作られたのではないかという疑問が強まっています。

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(農場の盛り土予定図)

膨大な量のリニア残土処分の総点検を行え

 以上のように、JR東海は6千万立方メートル近い 工事残土を山や谷や川や海に捨てまくるという乱暴な 処分計画を行おうとしています。各地の処分残土量は 膨大であり、台風や集中豪雨によって残土集積地の崩 壊や土石流が起きれば、その被害は甚大なものになります。こうした処分計画は具体的に明確にされる形で環境影響評価が行われたことはなく、全体の8割近い 工事残土の処分地が不明のまま、環境アセスを済ませてしまっています。残土処分地の募集等の調整は沿線 自治体の役割とされていますが、調整が進まない場合は国交省が斡旋に乗り出すこともあります。処分計画はJR東海の要望に沿って認めているもので、国や自治体が安全性などを具体的にチェックすることはありません。

 私たちリニア沿線住民は、残土処分計画について、現地の視察や住民からの声を聞き、「平 地があれば捨て置く」というJR東海のやり方が住民生活を顧みない乱暴で粗雑なものであり、自然への敬愛の念を全く持たないものであることを実感しました。赤羽国交大臣は熱海市の土石流被害を受けて、全国5 万1千か所の盛り土事業の総点検を行う方針を明らかにしましたが、併せてリニア工事残土の残土処分についてJR東海に計画の詳細を明らかにさせ、地元自治体や住民と協力して、計画内容や安全性について総点検を行うよう求めます。

以 上