飯田リニア通信 更新:2021/06/01

ストップ・リニア!訴訟ニュース第23号

 ストップ・リニア!訴訟ニュース第23号ができました。今回はの内容は、5月11日の第19回口頭弁論(更新弁論)です。裁判後院内集会では、調布市の外環道トンネルの陥没事故の被害者の方の報告がありました。都市部ではリニアも外環道と同じく大深度法が適用されます。

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ストップ・リニア!訴訟ニュース

第23号 2021年5月26日
発行:リニア新幹線沿線住民ネットワーク
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1年半ぶりの口頭弁論 リニア計画の杜撰・無謀は明らか
大井川の水問題、JR東海の赤字転落、外環道の陥没事故

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(地裁前集会)

 第19回口頭弁論が5月11日に東京地裁で行われました。市原義孝裁判長はじめ、裁判官3人全員が変わったため更新弁論が行われました。コロナ感染拡大防止のため傍聴人の定員は46名。抽選では47人が並びました。

 法廷では、まず原告の天野捷一さんが意見陳述、次に関島保雄弁護士、和泉貴士弁護士、半田虎生弁護士が弁論、最後に横山聡弁護士が進行に関する意見を述べました。

 原告側の証人と意見陳述について説明を求めた裁判長に、証人として申請した、橋山禮治郎氏、松島信幸氏、阿部修治氏、柴崎直明氏、塩坂邦雄氏、葛西敬之氏のうち、塩坂氏の辞退と、高齢の橋山氏、松島氏の早期の証言・意見陳述を要請しました。

 裁判官が2か所の現地検証と工事被害者2名の聴取をする提案について、裁判長は、コロナ下で今すぐの検証は難しいが、その意義は理解している、また、実施するかどうかはコロナが落ちついたところで考えたいと述べました。

 原告側は、リニア甲府駅と橋本駅周辺の2500分の一の地図を示し、また川崎市麻生区の1万分の一の地図を示し、駅施設や車両基地、都市部の非常口周辺について、2500分の一の地図をJR東海(参加人)が作成し、地図にはリニアの施設やルートを記入し、両側1㎞以内の地域を示す線などを引くように求めました。JR東海側は「2500分の1の地図が全くないわけではないが、限られている。原告側の要望を入れれば相当量の作成が必要で無理である」と回答。原告側はすべての地図が欲しいと言っているわけではない」と発言、裁判長は「原告側が求める地図があれば貸し出すことも考えられる。原告側はどこの地図を求めるのかを決め、できるかどうかも含め参考人も検討してほしい」と要請しました。

 裁判後の院内報告集会(参加は会場40、リモート24)の挨拶で川村原告団長は、「我々の提訴以来、南アルプス市の差し止め訴訟、静岡の差し止め訴訟があった。大深度の問題でも提訴が予想される。大井川の問題、財政上の問題など、すべていい加減なアセス、工事計画に原因がある」と述べました。また、和泉弁護士は「大深度と浅深度と二分しても、本来は連続したもの。浅い部分を支えている大深度だけ使って良いという法律に無理がある」と、横山聡弁護士は「JR東海の東海道新幹線の夢をもう一度が、国民にとっては悪夢になる。」と述べました。最後に昨年10月18日の調布市の外環道トンネル工事による陥没事故について、被害者である菊池春代さんがリモートで報告しました。

 次回の第20回弁論は、9月10日、第21回は12月2日の15時から。その後、証人の意見陳述が行われる予定です。

天野捷一さんの意見陳述(要旨)

 調布市の外環道の大深度地下工事の陥没事故で、NEXCO東日本は因果関係を認め、およそ千件の被害補償、2年間工事を停止し現場の約50戸を撤去し地盤改良工事を行う方針を示した。私の住む川崎市の市民は、リニアの大深度地下トンネルの工事による様々な影響を心配している。

 リニアのトンネル工事も住宅街の地下。JR東海が行った44本のボーリング調査はほとんどが非常口のための調査でルート上は11本にすぎない。等々力、梶ヶ谷、犬蔵の非常口周辺を除くルート上はボーリングはしていない。本来すべきルート上の住宅の家屋調査もしない。

  JR東海は事業説明会で、シールド工法は実績のある工法で、地盤沈下や、騒音や振動被害は、心配はないと説明したが、外環道の被害で根拠はなくなった。地下のトンネルで土地家屋の価格が下がる心配に、相場による変動、法律論、風評被害などの見解を示したが、外環道の被害は不動産取引に影響を与えている。ある幼子を抱えた女性は、「きちんとした説明になっていません。大丈夫というがこんなものを作られるのは不愉快です。地図だってはっきりしていない。今回の説明会に主人も来たいと言っていたのに、平日のこんな時間にやっている。私たちは35年ローンを組んで家を購入した。真下にトンネルが掘られると分かっていたら買わなかった。土地の価格も下がるでしょう」と訴えた。

 川崎市の水道水は相模川、酒匂川を水源とし2本の導水隧道により供給される。リニアのトンネルは導水隧道と近接・交差する。麻生区東百合丘では導水隧道から40m南の非常口の建設中に地盤変動があり水道局がJR東海に調査を求めた。同区上麻生では導水隧道の下27mで、町田市小山町では34m下で、相模原市西橋本ではわずか4m上で、同市緑区大島では10m下をリニアトンネルが通る。地盤・地質や工事施工のミスがあれば、4、10mなどの接近した交差は不安だ。導水隧道が破損すれば150万川崎市民の飲料水が断たれる。

 国交大臣の2度の工事認可と大深度使用の認可への異議申し立てに、国交省はいまだに決裁をしない。沿線住民の生活環境に重大な被害をもたらすリニアの工事認可の取り消しを強く要請する。

関島保雄弁護士の意見陳述(要旨)

 リニアはネットワーク性、営業の健全性の欠如、環境影響の調査と保全対策が不十分の問題があり、認可は全幹法と鉄道事業法と環境影響評価法に違反している。認可の取り消しを求めるのがこの裁判である。

 JR東海は静岡工区と山梨工区が連結するまでの間のトンネル漏水は認めるよう求めているが、静岡県知事は、大井川下流域62万人の飲料水、農業用水、工業用水を守るため、トンネル内の湧水の全量を大井川に戻さない限りは河川法に基づき静岡県内の工事着工に同意しないとする。他都県でも残土置き場の確保が進まず、JR東海は2027年の名古屋開業予定を諦めざるを得ない状況だ。

 JR東海は、昨年8月大井川上流域への影響予測調査結果を示した。トンネル周辺の尾根では掘削後20年で地下水位が300~400m低下、荒川岳を中心にした広範囲に100m以上低下する地域が拡大するという、生態系破壊の深刻さを示すものである。この予測が認可6年後に明かされたことも環境影響評価の杜撰を示すものだ。

 JR東海の不誠実な対応に、本件原告を含む静岡県民107名は昨年10月に工事差し止めを提訴、19年には山梨県で工事差止提訴、近々予定のリニア大深度トンネル工事差止訴訟など反対の運動が広がっている。

 新型コロナ下東海道新幹線の乗客激減によりJR東海は2015億円の赤字転落。一方で、リニアの工事費を3800億円を投入。厳しい財政状況に追い込まれることは明らか。さらに名古屋までの工費が1.5兆億円増大。今後の増大も確実。JR東海が倒産、財投3兆円が返済不能になる恐れも。工事が進んでいない今が、工事計画を中止、撤回すべきチャンスである。

 原告適格否定の理由として、輸送の安全性に関する主張は役務提供契約締結によって(乗るときになって)初めて発生するもので、それ以前は個別的利益として保護すべき趣旨とは言えないとしたが、安全性を確保していないから認可を取り消すべきという主張を工事完成後にする意味がない。自然環境保全の権利に関しては国民が一般的に等しく受ける権利であり個別的利益と解することができないとしたが、300m以上地下水位が下がるというデータを今まで隠すなど影響評価の杜撰さが明らかになりつつある中で、南アルプスの自然を守るのは国民個々の行動しかなく原告適格は認めらるべきだ。

 物権的権利について、認可により直ちに予定地内の物件の行使が制限されるわけでなく、収用の段階で取り消しを求めればよいとしたが、土地収用委員会は補償金額しか議論せず、事業計画の問題点は議論しないので、認可段階でなければ計画の是非は議論できない。

 残土運搬車両の運行による被害について、環境影響評価では残土の運搬経路、運行頻度など明示されていないので、原告が被害を受ける地域に居住するか認定できないので、適格がないとした。残土の処分地、運搬経路等を明示しなかった環境影響評価手続きの違法性を主張したのは原告である。不十分な環境影響評価を認め工事を認可した国交省を批判すべき裁判所が、その瑕疵を原告適格を否定する根拠とする判決には矛盾がある。原告適格を否定された原告らは東京高裁に控訴した。

 リニアの品川駅、名古屋駅を巡る4大ゼネコンの談合は認可の時期に進んでいた。財投を見込んでゼネコンは工事費を独占的に取得しようとした。この中で、工事費の積算のために駅舎等具体的な設計図が示されたはずで、環境影響評価の過程ではそれらを示さず、違法であり、また原告の開示要求にも応えていない。

 大深度の地下トンネル工事の行われた外環道で調布市内の住宅街で陥没事故が起きた。地盤調査の不十分は明らか。リニアも沿線予定地の住民の陥没事故への不安が高まった。本件訴訟でも指摘したが、今回の事故が危険性を証明した。リニア工事でも岐阜県内で陥没事故が19年に起き工事が約半年停止。環境影響評価における工事予定地とその周辺の地盤調査は不十分であり、これらの事故が今後のリニアの工事の危険性を一層明らかにした。

和泉貴士弁護士の意見陳述(要旨)

 全幹法の基になる鉄道事業法は鉄道事業の認可の許可基準として輸送の安全性を掲げる。JR東海も安全安定輸送の確保を宣言している。リニア実験線で出火事故が起きたが、JR東海の説明不足は安全性への不安を高めている。

 脆弱な地層に造られる南アルプスの長大トンネルは運行時の安全性が問題。災害時の乗客の避難について検討された形跡がない。この指摘に国交省(被告)、JR東海(参加人)から何の回答もない。このような裁判への対応をみても安全性確保の姿勢が欠如している。

 リニアは、超電導状態が突発的に失われるクエンチは起きると車体は推進力と浮上力を失う。実験線で1999年に発生しており、リニアの技術は完成していると言えない。

 リニアの建設費用は全線で9兆円で、さらに金利負担、追加費用など巨額の費用を要するが、経済的合理性に疑問がある。人口減に伴う需要減、航空機等代替的移動手段による需要増の抑制。既存の新幹線と接続できない。JR東海は名古屋までの工事費が1.5兆円増加し7兆円になると発表。工事認可段階での採算見通しの甘さを示すもの。

 JR東海の収益の柱の東海道新幹線は大半がビジネス客。コロナ禍で対面の商談や会議がリモートに替わり、ビジネス客は急激に落ち込んだ。工事申請以前でもIT化の促進で会議のリモート化は提唱されており、JR東海の事業予測は不適切だった。

 全幹法は新幹線の条件として安定的な財源の見通し、収支採算性、投資効果等を挙げる。鉄道事業法も事業計画の経営上の適正を求める。全幹法は新幹線は全国的な鉄道網の形成に足るものを求める。リニアの経済的不合理はあきらかであり法令の条件等に整合しない。このようなリニアの認可の一方で、乗客や沿線住民の生命身体、南アルプスの自然環境等を犠牲にすることは許されない。

半田虎生弁護士の意見陳述(要旨)

 原告らがこの訴訟を通じて守ろうとする南アルプスの自然環境は、原生自然環境保全地域や国立公園、またユネスコエコパークに指定され、客観的価値を有し、これを守ることは良好な自然環境を享受する権利利益の保護につながる。

 南アルプスは海洋プレート上の堆積物が大陸プレート側に付加され数百万年をかけて隆起した。現在も年4mmの隆起を続けている。その成り立ちから脆弱であり崩壊地形や破砕帯が多数存在する。地質の予測は困難であるのに、JR東海が行った水平ボーリングは2カ所で、複雑な地層に対しては十分ではない。また環境保全の立場からの意見に十分向き合わず瑕疵の多い環境影響評価手続きで工事実施計画の認可申請をしたが、国交大臣は慎重な検討をせず認可しており裁量権の逸脱濫用がある。

 トンネル工事予定地には幅約800mにわたり断層帯が予測される。現在はJR東海も説明しているが、環境影響評価の段階でこの断層帯について工事区域内には存在しないものとして扱っていた。これも環境影響評価の杜撰、瑕疵を示す。

 表層水は地下に浸透し、最終的には河川に表出する。トンネルが地下の帯水層を通過すると、トンネル内湧水や地下水の流れの変化が起きる。河川の下の断層をトンネルが通過すると河川の水が地下へ抜ける。JR東海は毎秒2トンのトンネル湧水を予測している。また大井川、西俣川の地下に断層の存在が指摘され、両河川の水量減少、地下水や沢の枯渇の恐れがある。JR東海は昨年10月に地下水位がトンネル工事によって最大で380m程度低下すると予測した。

 絶滅危惧種のヤマトイワナに着目すると、河川の水量の減少で、生息域が減少し、競争が激化し個体数が減少する。ヤマトイワナを餌とする動物も減る。水域の食物連鎖の変化の影響は陸域にもおよび、南アルプス全体の生態系が崩壊しかねない。数百万年をかけて形成された生態系・生物多様性が一瞬にして失われる恐れがある。また工事にともなう土砂の河川流入や水質汚濁による影響も予想される。

 JR東海が予想する毎秒2トンの水量は約63万人の水利権量に匹敵し、生活、農業、工業用水に多大の影響が必至だ。生物多様性の喪失は、類まれな南アルプスの自然環境を享受する機会を失わせる。リニアの工事は日本や世界にとって不可逆的な被害を発生させかねない。

菊池春代さんの報告(リモート参加)

 住居は陥没から10m。原因は事前調査の不十分。100~200mに1本のボーリングを、1㎞の間しなかった。地盤工学の専門家も空白区間に原因ありとしたが、事業者はいまだに認めない。弁護団も地盤調査の不足についての説明を求めている。

 事業者は、付近の200mほどの区間について40~50戸を解体撤去して地盤改良工事をすると発表。住民への説明前だった。大深度法は40m以深の使用を認めるだけなのに、住民の所有権のある地表部分まで、勝手に決めるというおかしなことがおきている。事業者は個別の住民との交渉を始めた。しかし、地盤の状況について私達に説明がない。説明会を要求しているが、その前に個別に交渉をし、簡単な補償で済ませようとしているのではないか。団体での交渉を求めているが、対応がない。国交大臣は誠意のある対応をいうが、事業者に誠意がない。

 振動騒音の健康被害について、事業者は調査をしなかった。私たちは、12月の段階で、308世帯に対してアンケートを実施。回答132件のうち102件の騒音、振動、低周波の被害があった。3月19日の事業者の最終報告書は、これまで同様の振動、騒音の防止策をするという。陥没前から低周波音については事業者に文書で伝えていたが無視された。低周波音による不快感、不安感、不眠や体調不良は大きな問題だ。他の地域で起きないよう、ここでしっかり追及していきたい。

本村伸子議員(院内集会で)

 1.5兆円の事業費の増大でリニアの前提がまた崩れた。工費の増大の懸念についての国会質問に、当時の藤田鉄道局長は、南アルプスの地山等級を最も厳しく査定して積算したので工事費の想定は合理的と判断できると認可に当り確認したと答弁(注)。合理性がなかったことが明らかになった。大井川の問題でも事業費が増加する可能性がある。

 外環道の陥没事故で大深度地下利用の前提が崩れた。実験線の労災事故、山口工区の陥没事故、談合事件など、ひどい状況。もともと机上の空論で勝手に線を引いたことが悪い。自然環境を壊し、命の水を奪い、静かな暮らしを奪う杜撰な計画をやめさせるため皆さんと共に頑張っていきたいと思う。(注:鉄道局長の答弁は南アトンネルに関するもの。しかし、掘削開始は遅れ、掘削ペースも予測の半分程度。)

◎原告団・南アルプス調査委員会編著の『リニアが壊す南アルプス エコパークはどうなる』(税別900円)が緑風出版より4月10日に出版されました。是非お読みください。

◎提訴以来、原告団事務局長を務めてこられた、天野捷一さんが、ご自身の健康上そのほかの理由で退任されます。長い間ご苦労様でした。


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 4ページ目の本村伸子議員のお話の中の「注」についての補足説明です。鉄道局長の言葉ので「地山等級」はその山の地質についてトンネル工事の難易度を示すものです。

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 南アルプストンネルの長野工区の除山斜坑の掘削開始は2017年11月1日です。2021年3月24日の大鹿村のリニア連絡協議会で、全長1870mの7割を掘削したと、JR東海は報告。掘削開始から3月24日までの日数は1238日です。この日数で掘削した距離を割って1か月当たりの数字にすると、約32mになります。

 同じく長野工区の小渋川非常口から掘り始めた小渋川斜坑は本線部分の先進坑を2019年8月23日に掘削を開始。全長1600mの4割を掘削したとJR東海は報告。579日で640mを掘ったことになり、同様に計算すると、1か月あたり約33mになります。

 残土搬出の目的で掘削している釜沢斜坑については、2020年3月3日掘削開始で全長350mの4割掘削。1か月あたり約11m。

 5月12日に山梨工区の広河原斜坑の切羽が報道陣に公開されました。ニュースは、広河原斜坑は、2017年9月に掘削開始で、全長4.1㎞のうち3.3㎞を掘削したとしています。掘削期間の約3年8か月で割ると、1か月あたり約75mを掘削。残り800mは1年で掘削の予定と説明。1か月当たり約67mです。JR東海は地質がかたく、出水も少なく順調に進んだと説明。

 また、このニュースは、山梨工区の早川斜坑の先の本線部分の先進坑は1900mを掘削したと伝えています。過去の報道を調べるとこの先進坑は2017年7月に掘削を開始。1か月あたり約41mのペースです。

 2014年11月に大鹿村で行われた事業説明会で、長野工区について、トンネル工事は、2015年度中ごろから2027年の中ごろまでの12年間とされていました。ガイドウェイの設置や試運転期間に2年必要なので、工事期間は10年です。

 長野工区は、3つの斜坑口から掘削しています。そのうちで、斜坑部分と本坑部分を合わせた距離が最も長いのが除山斜坑口から静岡工区との境までの約6960mですからこの区間の工事期間が長野工区のトンネル掘削期間の目安になります。120か月で割ると約58mになります。これが当初の掘削ペースの見込みだったはずです。長野工区の先進坑と除山斜坑の掘削ペースは見込みの約57%程度です。

 山梨工区で順調だったという広河原斜坑の掘削ペースは、67mから75m程度です。山梨工区の先進坑のペースは「順調なペース」に比べると、約61~55%程度です。

 昨年12月14日の南信地域のリニア関係市町村長とJR東海の意見交換会の席上、JR東海の宇野護副社長は、静岡工区の工事期間は7年8か月と説明。その中で、トンネルの掘削期間は、距離のもっとも長いのは西俣斜坑口から長野工区までの6.5㎞であり、現在の技術であれば1か月に100mは掘れると考えると5年5か月で掘れるはずと説明していました。昨年6月26日の静岡県知事との会談のなかで金子社長が行った説明と同じです。月100mというペースに基づけば、山梨工区でも長野工区でも、現実的には、32~41%程度のペースでしか掘れていないわけです。

 長野工区の平均では、32~33mなのですが、約70m程度掘れる時期もあれば、数か月ほとんど掘れないという時期もあります。山梨工区については、広河原斜坑と先進坑でペースが大きく違っています。南アルプスの地質の複雑さを反映していると思います。飯田リニアを考える会の会員であり、地質学者の松島信幸さんはじめ、地質や土木の専門家が以前から指摘していたとおり、南アルプストンネル工事の困難は現実のものとなっていると思われます。静岡県の主張は、それをあらためて検証しているものです。JR東海と工事を認可した国交省の南アルプストンネル工事に対する見込みは甘かったと言わざるを得ません。