飯田リニア通信 更新:2020/11/11

集会"「今あらためて公共事業を問い直す」~諫早干拓とリニア中央新幹線"の報告

 集会"「今あらためて公共事業を問い直す」~諫早干拓とリニア中央新幹線" の報告が、集会に参加した原告団事務局長から届きましたので、掲載します。


諫早湾干拓とリニア新幹線の問題を通して、公共事業の在り方を考える

全国公害弁護団連絡会議がシンポジウム開催、事業の問題点と見通しを報告

 11月7日午後、東京・茗荷谷の林野会館で、全国公害弁護団会議主催のシンポジウム『古くて新しい公共事業と公害~諫早湾干拓とリニア中央新幹線問題』が開かれた。公害総行動実行委員会と日本環境会議が共催しました。コロナ禍のためリアル参加とリモート参加の形でひらかれ、弁護士や研究者、公害被害者団体、市民運動団体の関係者が参加しました。以下、シンポについてあらましを報告します。

 前半は諫早湾干拓事業に対し開門裁判で闘っている有明弁護団の堀良一弁護士が干拓事業の経過や開門裁判の現状について報告し、一橋大学名誉教授の寺西俊一氏が日本環境会議の諫早湾干拓問題検討委員会で明らかにされているこの事業の問題点について解説しました。

 後半は、ストップ・リニア!訴訟の原告弁護団共同代表の関島保雄弁護士がリニア事業がもたらす環境影響や安全対策の欠如と、12月1日に予定されている原告適格の中間判決の内容や今後の訴訟方針について説明しました。そして、日本環境会議の磯野弥生氏(東京経済大学誉教授)が公共事業としてのリニア新幹線の問題点を解説しました。

農業・漁業被害が明らかになり、国は干拓目的を「水害防止」に変更

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 堀良一さんは、大規模公共事業は山・川・海の自然を破壊してきたと指摘し、その実態は山では拡大造林や大型造林、川ではダム建設や三面張りの河川整備、そして海では埋立て・干拓を進めることで生態系の破壊や自然の恵みの喪失を招いたと述べました。このあと堀さんは諫早湾干拓事業や開門を求める訴訟の経緯を次のように説明しました。

 日本の干拓は食糧の増産と新農村建設を目指して戦後全国で始まり、河北潟(石川)、中海(島根・鳥取)、笠岡湾(岡山)、児島湾・八郎潟(秋田)などで実施されましたが、結果的に干拓地が売れない→遊休農地の発生、水質の悪化、干潟や浅海の喪失という事態を招きました。そして国は1975年の減反政策で干拓の目的を営農から防災へと切り替えました。

 国営諫早湾干拓も、昭和61年に事業着手され、平成9年には堤防の締め切りが行われました。ところが、この堤防閉め切りにより、内陸では排水不良や冷害による不作が起こり、有明海で汚染水の流入やアオコの発生による漁業での深刻な影響が顕著になりました。国は干拓の目的を防災に変更した段階で、農民や漁民の理解を得ようと100億円をつぎ込みました。しかし、堤防の閉門ゆえに台風や豪雨に対する効果は上がっていないのが現状です。

 地元住民は2002年に「よみがえれ!有明訴訟」を提訴し、2004年に佐賀地裁は工事中止仮処分命令を出しました。しかし翌年に福岡高裁で仮処分命令を取り消す判決が出され、2008年に干拓事業は終了、営農が開始されました。これに対し、佐賀地裁で開門すべきとする判決が出され、福岡高裁ではこの判決を踏襲し、開門判決が確定しました。これに対し長崎県は開門阻止を目指し長崎地裁に提訴しました。長崎地裁は2017年に開門禁止判決を出しましたが、営農者は開門と損害賠償を訴える訴訟を起こし、開門訴訟は最高裁まで進み、昨年最高裁が高裁に差し戻す判決を出し、福岡高裁での審理が今年から始まっています。原告側は長崎地裁の開門阻止判決を踏まえ、開門事前準備を徹底させる方針で闘っています。

 堀さんの説明のあと寺岡さんは、日本環境会議が最高裁の差し戻し判決後諫早湾干拓問題検証委員会を立ち上げ、新たに事業目的になった総合防災干拓の欺瞞性や湾奥部の堤防による締め切り(ギロチン)による干潟の喪失などの影響について本格的な検証作業を行っていることを報告しました。

リニア工事認可取消し訴訟は、認可手続きと環境影響評価(アセス)に違法していることを訴えている。原告を減らすことで立証範囲を狭めようとする中間判決は認められない~関島保雄弁護団共同代表が強調

 後半の報告に立った、ストップ・リニア!訴訟の原告弁護団共同代表の関島保雄さんは、訴訟は、2014年10月に国交大臣がリニア新幹線工事実施計画(その1=土木工事)の認可の取り消しを求めて2016年5月20日に759名の原告が東京地裁に提訴したもので、その後電気・通信関係の工事計画(その2)が認可されたのに対し、67人がその取り消しを求めて提訴していると報告しました。

 12月1日には原告適格について中間判決がだされる予定であり、原告を減らすことで立証範囲を狭めようとする判決が出されるとしたら許されることではないので、その後控訴して闘うという方針を示しました。そして、リニア新幹線事業をめぐるこれまでの経緯や工事の現状について以下のように説明しました。

 これまで17回開かれた口頭弁論では、東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜そして愛知の沿線住民の原告らが工事や運用による被害の予測と環境影響評価手続きのずさんさを明らかにしてきました。原告側は、簡単な手続きで済む全国新幹線鉄道整備法ではなく、詳細なアセスと安全対策を求める鉄道事業法を適用すべきであると求めています。そして、リニア新幹線事業は綿密な調査と予測評価、保全対策を基本とする環境影響評価法にも違反していると主張しています。そしてあまりにもずさんなアセスゆえに、沿線の工事現場では、立坑への地下水の噴出や斜坑上の地盤が崩落する事故などが起きています。

 昨年、裁判所が中間判決を出すという意向を明らかにして以降、大井川の減水問題についてのJR東海の対策がその場しのぎであるとして静岡県が反発し、県内のリニア工事が着工できない状態となり、その他の沿線でも工事残土の処分先が決まらないために、工事が遅延し、JR東海自身が2027年の品川・名古屋間の開業が困難になったことを認めています。

 先月30日、大井川の水を「命の水」として利用している農業従事者など県民107人が静岡県におけるリニア工事の差し止めを求める訴訟を静岡地裁に起こしました。

 新型コロナウイルスの感染による鉄道産業への深刻な影響やリモート勤務の増加により、鉄道利用客の減少傾向は今後も続くとみられています。いまJR東海は3兆円の財政投融資を使って工事を行っていますが、あのリニア談合事件の課徴金とあわせ、国の資金が無駄に使われる事業になっています。

 原告にはリニアのルート周辺に住む人や、ルート上に土地や財産を所持している人がいますが、全員が南アルプスの自然環境を楽しむ権利や安全な鉄道を利用する権利を求めています。次に、路線や施設上に不動産を有している原告や騒音・振動・地下水・水道水や陥没事故、残土処分、景観等で予想被害を訴えている原告もかなりの数に上っています。路線から離れて住んでいる原告も2百人以上います。今回、自然環境や安全性の確保のみを訴えている原告やルートから離れている原告に適格性はないとする判決を出すとすれば、国とJR東海の言い分を認めることになり問題です。原告団、弁護団は不当な判決ならば控訴する方針ですが、そうなれば、リニア訴訟は東京地裁と高裁で両方で争うことになります。

 関島さんの報告と説明を受けた後、磯野さんが公共事業としてのリニア新幹線の問題点というテーマで次のように解説しました。

 リニア事業は高度成長から後れを取った地域である山梨県、長野県の開発志向や、東京一極集中が進むバブル後の発展を望む名古屋や大阪の意向を受けて、JR東海が公共事業の民営化の形を取って始めたものです。実態は高速化と経済効果を優先し、命と健康や自然生態系・生物多様性を無視する国土強靭化計画の中核として進められたものです。人々の健康や生活を持続的に守る観点について議論も行われませんでした。南アルプスは山頂から1400メートル下にトンネルを掘り、都市圏では大深度トンネルを掘る計画ですが、営業できなくなったときトンネルをどう埋めるのか原状回復の手立ては国もJR東海も何も考えていません。

 20回にわたる中央新幹線小委員会の審議でも、リニアの必要性とJR東海の経営見通しを審議しましたが、沿線地域の影響や公害については論議されていません。残念ながら住民が対等に意見できる場は裁判だけになっています。

 持続可能性アセスにより、環境・防災・地域経済・地域社会・次世代への影響についてこの事業を見直し、国に対して政策の転換を迫る必要があります。

(報告:リニア訴訟原告団事務局 天野)