飯田リニア通信 更新:

ストップ・リニア!訴訟ニュース第20号

 ストップ・リニア!訴訟ニュース第20号が発行されました。


ストップ・リニア!訴訟 ニュース

2 0 号 2 0 2 0 年 7 月 1 0 日 発 行
発 行 : ス ト ッ プ ・ リ ニ ア ! 訴 訟 原 告 団
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コロナで遅れる中間判決

弁護団共同代表 弁護士 関島 保雄

 3月30日に言い渡される予定であった原告適格(原告となれる資格)に関する中間判決は、新型コロナ感染の為、判決期日が延期されたが、期日が決まらない状況が続いている。緊急事態宣言が5月25日に解除されたが、裁判所からは判決期日の連絡が未だない。期日が入るとしても7月か8月で、万一9月になる可能性さえ否定できない。感染防止のため傍聴人数の制限等もあり得る。

 中間判決言い渡しが延期されていた間に、担当していた古田孝夫裁判長は4月に他の部署に移動し、新しい裁判長として市原義孝裁判官が担当になったが、判決は古田裁判長が書いて移動したものと考えられる。原告適格に関する中間判決は、原告の資格の無い原告を、裁判の早い段階で切り捨てようとするものであり、原告団はじめ弁護団は反対してきた。

 行政事件訴訟法は、原告になる資格を狭く制限して、リニア新幹線事業計画の認可により、法律的な権利や利益が侵害される危険のある者にしか原告としての資格を認めようとしない。問題は、原告の資格を狭く解釈して多くの原告を切り捨てることである。

 全ての原告は、リニア新幹線は強力な磁力線やトンネル構造である為地震や事故の発生等を考えると安全な乗り物と言えないこと、またトンネル工事により大量の地下水を失うことから南アルプスの自然を破壊するものであるとして、工事計画を取り消すべきと主張している。これに対し、国やJR東海は、これらの利益は、国民全体の利益であって、個人の利益や権利ではないから、原告適格は無いと主張している。しかし、安全な乗り物に乗る権利や豊かな自然環境を護る権利は国民一人一人の権利である。

 その他、リニア新幹線による騒音等の生活被害や、路線予定地の土地や家屋、立木の権利が奪われる等の被害を訴える原告も多数いる。路線に近い狭い範囲の住民しか原告適格を認めないのか、中間判決は、安全性や自然環境の審理など今後の裁判の証拠調べに重大な影響を与える。

 一方、コロナ問題で東海道新幹線の利用者数は 90%減とJR東海の経営基盤を直撃した。リニア新幹線の約9兆円に及ぶ工事費を負担できるのか窮地に追い込まれている。また大井川の減水対策に対する不信感から、静岡工区の工事着手に静岡県知事の同意が得られず、2027年の名古屋開業予定は困難と言われている。コロナ感染によるネット会議の拡大は、リニア新幹線の不必要性を国民に広めるチャンスでもある。

中間判決後もリニア工事中止を求める意気込盛ん

原告団事務局長 天野 捷一

 ストップ・リニア!訴訟は5月で提訴以来5年目を迎えた。これまでの18回に及ぶ口頭弁論では、沿線各地のリニア工事の影響や、今後起こりうる生活被害、環境被害について原告や代理人が切実に訴えてきた。法廷ゆえに声には出せなかったが、彼らの発言に心から拍手を送った傍聴人も多かったと思う。コロナ感染拡大を受けて、当初3月30日に出される予定だった中間判決は延期され、次回は新たに裁判長になった市原義孝氏が古田判決文を代読する形になるが、その開廷期日は決まっていない。

 今年に入って、沿線各都県の訴訟事務局は、中間判決後の原告団の意向について回答を求めている。集計がほぼ終わったところでは、「原告適格を外すような判決が出た場合は、原告として高裁に上訴(控訴)して戦う」との答えと、「原告として控訴したいが、原告数が多いと上訴費用が大変なので、方針は原告団に任せる」という回答が8割以上に達する。控訴への取り組みは万全だ。

 リニアを作らせてはならないという原告の意志は衰えていない。

静岡県の現状―国交省有識者会議の行方

リニア新幹線を考える静岡県民ネットワーク 芳賀 直哉

 リニア県内工事を巡る議論は、4月27日今流行りのZOOMによる第一回有識者会議が始まり、早いペースで進んでいる。2回目からは、マスコミ取材は認めるから公開原則は担保しているとの理由で一般傍聴をシャットアウトし、議事録に発言委員名を載せない進め方となった。全面公開を求めてきた静岡県知事やリニア県ネットは国交大臣宛抗議文を出したが、改善はみられない。

 この間、JR東海社長の「静岡県の要求は実現不可能だ。本事業は法の趣旨に合致している。6月中に実質的工事に着手しないと2027年開業が遅れる」との自社本位の発言に対する県知事や市民団体からの批判がでて、社長の「撤回」表明があった。

 工事を認可した国交省としては、有識者会議において水問題に一定の妥協案を得て事業を推進したい思惑が見え見えである。県民・国民は、県知事、流域10市町首長、利水団体が当初の原則を堅持して安易な妥協を認めないように、応援と監視を継続していく必要がある。

 また、情勢の急展開に備えて、コロナ問題で遅れている「静岡県内工事差止訴訟」の準備を進め、何とか9月初旬の提訴にもっていきたい。

南アルプス市民の工事差止訴訟

 2019年5月8日に、南アルプス市の住民8名が原告となって、JR東海を相手に、リニア新幹線の 工事差止訴訟を起した(甲府地裁)。これまで2度の口頭弁論が行われ、原告側は騒音等の生活被害やリニアに公益性が無いことを主張、また現場検証を強く要求している。次回口頭弁論は8月18日。

「リニアまんが訴訟」判決は原告の請求棄却、控訴へ

 6月16日(火)、甲府地裁において「リニアまんが訴訟」(鈴木順子裁判長)の判決が下され、原告の請求は却下された。判決は主文のみ読み上げ、2分もかからなかった。原告が最も重大な問題として提起していた裁量権も、完全に被告(山梨県)の主張を受け入れ、教育の中立性にも問題はないとした。凡庸で不当な判決である。また一つ司法の独立性が疑われる事例が増えたと言える。

 原告側は6月18日に原告団会議を開き、9名の原告で控訴に踏み切ることを決めた。

ストップ・リニア!訴訟4年度決算 2019 年 1 月 1 日~同 12 月 31 日

入金の部(円)出金の部(円)
前年度繰り越し ※1,598,837
(2019.1.1預金残高-4年度会費前年納入)
4年度弁護団報酬・活動費計3,594,019
リニア訴訟第二次提訴費用補助等64,034
原告・サポーター会費5,150,630第13回~17回リニア訴訟
報告集会シンポ講師代等
240,000
預金利息34
リニア訴訟報告参加費
(報告集会・リニアシンポ参加費5回分) 180,360
リニア訴訟事務局費補助389,461
裁判長あて用はがき代①269,190
ブックレット等販売16,000ストップ・リニア訴訟ニュース104, 665
カンパ等108,281『環境と公害』購入補助等68,319

事務局関係費
事務局本部、会議等出張費
228,920
合 計7,054,142合 計4,958,608
入金-出金=2,095,534預金残高=3,073,534(2019/12/24現在)

4年度会計終了後の預金残高は3,073,534円で、既に振り込まれた5年度分 原告サポーター会費987,000円を引いた2,095,534円が次期繰り越しとなる。

ストップ・リニア!訴訟5年度予算 2020年1月1日~同12月31日

収入の部(円)支出の部(円)
原告・サポーター会費5,000,000弁護団報酬・活動費計3,501,400
前年度繰越金2,095,534訴訟証人(研究者) 証言・意見書費用1,000,000
雑収入100,000沿線事務局活動費補助500,000

事務局行動費、会議費補助380,000
訴訟ニュース、資料費150,000
予備費(控訴費用補助、シンポ企画費用)500,000
次期繰越金1,164,134
合 計7,195,534合 計7,195,534

懸樋さんを悼む

ストップ・リニア訴訟!原告団長 川村 晃生

 子どもた ちを地方の町で育てたいと、思い立ってふるさとの甲府に戻ってきた。1987 年のことである。そしてまもなく、環境保護運動に携わっている人たちと関りができ、市民運動に加わるようになった。

 その中に「青い空の会」という反原発運動 に取り組 ん でい る 団体があって、そこに懸樋さんがいた。懸樋さんは山梨県在住の人ではなく、たまたま仕事の赴任先が山梨であっただけだったが、人生とは不思議なもので、ここで懸樋さんの人生は市民運動一色に染められていくことになる。後年彼は「あの時甲府に行っていなければね」と苦笑まじりに言ったものである。

 当時リニアの実験線は宮崎県にあり、そこで車両の火災事故が起きたりしていた。そのリニアの実験線が金丸信衆議院議員の政治力もあって山梨県に移設される可能性が高まっており、「青い空の会」のメンバーも警戒していたのだ。そしてその当時は、リニアそのものの問題よりも、リニアによって原発が増設されるのではないかという 危惧の方が大きかった。実際山梨県の実験線は、新潟県の柏崎原発の電力で動くとされていた。

 その中で一つの関心事として高まってきたのが、電磁波(磁界)の問題だった。電磁波については、当時はほとんどの人が問題の 重要性を理解しておらず、その中にあって懸樋さんは電磁波問題に 身を投じる覚悟を決めたのであった。 甲府市のある集会で、懸樋さんが「高圧送電線問題全国ネットワーク」(現ガウスネット)の組織化に取り組むという決意を述べたときのことが、今でも脳裏に思い浮かぶ。

 当時電磁波問題と言えば、スウェーデンのカロリンスカ研究所の疫学調査で 、高圧送電線の真下や近辺で小児がんの発生リスクが高いというような事実が知らされている程度であった。懸樋さんも五里霧中の 中で、手探り状態であったのだと思う。対象の困難さもあったのであ ろう が、彼は 定職を辞して時間の確保に努めるという状況にまでわが身を追い込んでいった。なかなか常人の為せる業ではないが、おかげで電磁波については、その時のレベルの範囲で分かることなら、彼に尋ねればたいていのことはすぐに教えてもらえたのである。

 自ら決めたことや学んだことに強い信念を持ち、 相手が誰であろうと疑問をぶつけ引き下がろうとしなかった。2007年4月にJR東海がリニア構想を発表してすぐの頃、私は懸樋さんに連絡を取り協同して「リニア・市民ネット」を 立ち上げた。そして運動を始めてまもない頃、リニア建設中止の署名 約5 000 筆ほど を 集めて国交省に行ったことがある。その時懸樋さんは、変動磁界 の数値が途中で消えてしまっていることに不信感を持ち、国交省の官僚の回答に十分に納得できなかったようで、その質問をくり返し て 食い下がったことがある。私は腹の中で、「懸樋さん 、この役人は分かっていないのだから無理でしょう」と思ったが、その時に彼の電磁波問題にかける信念とも熱意とも言うべきものの一端をかいま見たような気がしたのである。

 それからもう一つ、懸樋さんについて特記しておかねばならないことがある。それは、2011年の福島原発事故以来、福島の子どもたちやその家族を」夏休みに山梨県北杜市の清里に招く 「星空キッズツアー」を開催し続けてきたことである。今年実行されれば9回目になる。放射能 の心配のない清里の地で、ほんとうに楽しげに遊ぶ子どもたちの様子が、毎年8月頃の「ガウス通信」に報告されている。カンパを集め、ボランティアを募り、決して片手間でできる活動では なかったはずであるが、それでもこの行事を毎年開催し続けてきたところに、懸樋さんという人の実直で優しい人柄が偲ばれる。

 懸樋さんは、市民運動の中でも珍しい電磁波問題に取り組んだ数少ない一人である。とりわけリニアにおいては、電磁波のリスクはきわめて高く、重要な位置を占めている。従ってリニア の運動の中でも、今後ますます懸樋さんに頼ることが増えていく に ちがいないその矢先に、懸樋さんは急逝してしまわれた。いくら惜しんでも余りある。そして長きにわたるご厚誼に感謝するばかりである。

合掌

(2020年6月4日)

懸樋哲夫さんの経歴

1950年生まれ。法政大学卒。80年代から反原発の市民運動に参加。甲府でのリニア実験線の反対運動をきっかけに電磁波問題に取り組む。1993年に高圧線問題全国ネットワーク(現在のガウスネット)を結成し代表となる。また、リニア・市民ネット東京の代表としてリニア反対やストップ・リニア!訴訟で活動。リニア新幹線沿線住民ネットワーク結成以来事務局長を務めた。2020年5月31日急死された。 著書に『 デジタル公害~ ケータイ・ ネットの環境破壊 』 (2008年緑風出版)、共著に『総点検リニア新幹線 プロブレムQ& À 』(2017年緑風出版)など。

お知らせ

●「ストップ・リニア!訴訟」の会計年度は毎年6月から次年度5月となっています。各登録先への会費振り込をお願いいたします。

また裁判を円滑に維持していく財力確保のため、知人のサポーターへのお誘いなど、ご協力をお願いいたします。

●原告会費: 次年度以降 1口 3000円 ●サポーター会費: 初年度 1口 2000円 次年度以降 1口1000円

●団体サポーター会費:初年度 1口5000円 次年度以降 1口3000円