飯田リニア通信 更新:2020/01/18

ストップ・リニア!訴訟ニュース第19号

 ストップ・リニア!訴訟ニュース第19号が出来ましたので掲載します(PDF版)。


ストップ・リニア!訴訟ニュース

第19号2020年1月5日発行
発行:ストップ・リニア!訴訟原告団 http://linearstop.wix.com/mysite

裁判長が「中間判決で原告適格の判断」を予告

リニア計画詳細不明確なまま(第17回口頭弁論)

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 12月20日午後、ストップ・リニア!訴訟第17回口頭弁論が東京地裁103号法廷で行われました。午後1時半から、地裁前で集会が開かれ、川村晃生原告団長、関島保雄弁護団共同代表、懸樋哲夫が決意表明しました。午後2時からの傍聴券抽選には113人の希望者が並びました。

 裁判では、原告の懸樋哲夫が「リニアの磁界に関する予防原則」について意見陳述をしました。

 懸樋氏は陳述で、「WHOは『電力の健康、社会、経済的利益が侵されないという条件下で、ばく露を減らす為の極めて低コストの予防的処置を講じることは合理的であり、正当化される。また施策立案者、地域計画担当者、製造業者は、新たな施設の建設、また家電製品を含む新しい設備機器の設定に際しては、低コストの予防的措置を講じるべきである』と結論している」「WHOは予防原則の適応を進めている。完全に科学的に被害発生の確実性が証明されなくとも、指摘されているリニアの磁界リスクがあることについて高い予防的方策を採るべきである。国交省はこの予防原則を率先して実行し、JR東海を指導すべきだ」と求めました。つづいて、原告代理人の関島弁護士が意見陳述しました。

古田裁判長逃走、中間判決3月30日を宣言
―中間判決の必要はない、全ての原告は原告適格を有する.
関島弁護士反論

 関島弁護士は10月11日の前回口頭弁論後、古田孝夫裁判長が「来年3月に原告適格の中間判決を出す」と言明したことについて、「裁判所は中間判決をしなくても終結判決で原告適格と処分の違法性に関する判断を示せば足りる」と前置きし、「原告適格の中間判決は一部の原告かあるいは全原告の原告適格を否定する可能性を示すものであり、リニア路線や施設の位置関係が不明であること、原告らの居住地域と施設位置、変電所、非常口、車両基地の規模が具体的でなく環境影響が不明であること、輸送の安全性や電磁波の影響なでが被告側から具体的に示されないこと、静岡県における大井川水系の減水対策が決まっていないことなどから、原告適格を判断する材料がそろっていない」と述べ、中間判決を出さないよう強く求めました。

 ところが、古田裁判長は原告や代理人の意見を全く聞きいれることをせず、「反対の意見はありましたが、原告適格を判断することは適当であり可能であると考えます。弁論はこれで終了し、3月30日に中間判決を出します」と一方的に宣言し、閉廷を強行し退廷しました。

原告が減らされたらすぐに高裁に上訴

 裁判後午後4時から参議院議員会館で報告集会が開かれ、80人が参加しました。この席で関島弁護士は「行政訴訟で原告適格について中間判決を出すケースは極めて異例だ。異動などの人事で古田裁判長は変わることを前提に、中間判決と言う形で一定の意思を示そうと考えているのではないか」と述べ、原告を減らす中間判決が出た場合、2週間以内に高裁に上訴する方針を明らかにしました。

 自らが異動するからといって、理由もなく原告を切りすてることは被告側に立った姿勢であり、裁判官としての公正中立な訴訟指揮とは言えません。

中間判決に反対する
関島保雄弁護士の意見陳述要旨

1 裁判所は前回の法廷で、来年3月までに原告適格に関する中間判決をしたい旨の意向を示しました。

しかし、原告らは、全員が、原告適格を有しており、原告適格の中間判決をする必要性はありません。

 裁判所が、原告適格に関する中間判決をするということは、一部の原告か、又は全原告の原告適格を否定する可能性を示すものですが、現時点では裁判所が原告適格に関する判断をするには、判断材料は揃っておらず判断をすることは出来ないはずです。

2 原告ら居住地及び不動産所在地と中央新幹線の路線及び施設との位置関係が不明であること。原告適格を判断する為には、中央新幹線の路線と原告住居地等との位置関係を示す住宅地図が必要です。

 同じ縮尺2500分の1の住宅地図に中央新幹線の路線及び駅施設、車両基地、保守基地等の施設を記入したものの提出を求めるものです。

3 環境影響評価と施設の特定性が明らかでありません。原告らは、居住地における中央新幹線の工事及び完成後の利用により、健康及び生活環境への影響に関して、参加人の環境影響評価では参加人が建造しようとしている施設(停車場、車両基地、保守基地、非常口、変電所、換気塔等)の形状や規模が明らかでないので、それを明らかにすべきことを求めてきました。施設の形状が明らかでなければ、原告らの生活環境への影響についての原告適格に関して裁判所は判断することも出来ないはずであります。

4 輸送の安全性に関しても被告及び参加人は求釈明に回答していません。

 輸送の安全性に関しても、火災等の事故時に乗客の安全な避難について山岳トンネルの避難路(斜坑等)の具体的構造、距離・勾配や避難の為の手段などの問題があり、中央新幹線の乗客となる可能性がある原告らにとって、中央新幹線の輸送の安全性の確保のための対策や対応がどのように具体的にとられているのかが明らかでないと、裁判所は、原告適格の判断において、本件処分により工事が行われる中央新幹線が、個々人の乗客の安全性にとってどの程度重大な事故となるのか判断をすることが出来ないはずです。

 最高裁が、もんじゅ訴訟の平成4年9月22日判決で、「当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含む解される場合には、そのような利益も法律上保護された利益に当たり、これが侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある場合には当該処分における原告適格を有するものというべきである」と判示し、原子炉から約29km~約58kmの範囲の地域に居住する人たちの原告適格を認めました。

5 大井川源流部の水環境の破壊により南アルプスの生態系が破壊される危険性についての原告適格の判断についても未だ判断に熟していません。

 静岡県と参加人との議論を通じて参加人の環境影響評価が杜撰で、環境への影響を適正に回避し減少するとの参加人の言動には信用が無いことは原告ら準備書面26で詳細に主張したとおりです。

 中央新幹線トンネル工事により、大井川が毎秒2m3減水するとの参加人の環境影響評価の科学的根拠がいまだ提出されていません。そればかりか、静岡県と参加人との協議で出てきた、参加人の湧水対策として、中央新幹線のトンネル掘削の際の管理量(トンネル内湧水の最大上限値)として毎秒3m3のトンネル内湧水を設定するとし、その基礎情報としてトンネル湧水が毎秒2.67m3と推計しているが、管理量毎秒3m3の根拠が明らかになっていません。

 静岡県は、生物多様性部会を設置して、中央新幹線工事によりユネスコのエコパークに指定されている南アルプスは、その地質構造が他に類を見ない程複雑で、生態系も極めて希少且つ貴重であり、生育環境の変化には極めて脆弱であるという認識の基に、参加人に対し、トンネル工事等によりどのような現象が生じ、それが自然環境や水環境にどう影響を与えるかについて信頼性の高い解析手法を用いて推定すると共に、その推定の限界を理解した上で影響を最小限にする対策を求めています。

 しかし、参加人がこれに十分応えようとしない為、静岡県は参加人に不信感を持ち、未だに工事着工に同意していないのです。

 大井川の減水問題は、大井川だけに止まらず、南アルプス全体の生物多様性と生態系にとって重大な影響を与える可能性があります。

 被害の深刻さにより、南アルプスの自然環境の保護の利益は一般公益にとどまらず、国民個々人の個人的利益の侵害として法律上保護すべき利益であり原告適格を有しています。南アルプスの水問題に関して参加人の科学的根拠ある説明が無ければ裁判所としても原告適格に関する判断材料が無いのであります。

6 残土置場と、生活環境への影響との関係での原告らの原告適格について原告らの内、残土運搬車両の交通に伴う騒音振動排気ガス、交通混雑等により又残土置き場自体の設置による自然環境も含めて生活環境が影響を受けると主張する原告らの原告適格については、残土置場とそこへの運搬ルートや運搬車両の交通量等が明らかにならないと裁判所は原告適格を判断する資料がありません。

 神奈川県を例にとれば1,140万3に上る発生土の処分場は千葉県市原市の砂利採取場跡の埋立や、川崎港扇島の土地造成事業、横浜港新本牧ふ頭公有水面埋立事業等多様であるばかりか処分先は大半が未定であり、その搬出ルートすら現在でも確定していないことです。

 このように、現時点では、残土処分場が決まらなかったり、搬出ルートも未定である為、残土置場や残土運搬車両の通行による環境破壊を訴える原告らの被害予測も明確に特定できず現時点では原告適格を判断することは困難であります。以上

原告・懸樋哲夫さんの意見陳述要旨
リニアの磁界について予防原則を

 JR東海は磁界に関する情報を隠し、測定値を明らかにせず、安全性の説明をしないままリニアを走らせようとしています。また磁界に関する国際ガイドラインを定めているICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の適用についてその元にあるWHO(世界保健機構)の勧告を意図的に解釈し、リニアの磁界のリスクをないことにしています。

 磁界のリスクについては、国際がん研究機関・IARCが低い強度(0.3.0.4μT以上)の商用周波の磁界への毎日の慢性的ばく露が小児白血病のリスク上昇と関連していることを、疫学研究は一貫して見出している。国際がん研究機関はそのような磁界を「発がん性があるかも知れない」(2B)に分類しています。この事実はJR東海の説明資料にも表れていますが、その後の解説で「磁界と小児白血病の因果関係は確立されておらず・・・・」とし、この事実を消そうとしています。

 国際がん研究機関がその可能性を指摘している磁界の発がん性の可能性のレベルは0.4μTという低い数値です。これは国際がん研究機関が2001年6月に報道発表しています。

 そして、リニア実験線の測定値は静磁界で0.43mT(430μT)とあるのみです。ここで周波数が明らかにされていないことが問題となります。これを仮に50ヘルツの変動磁界でも同じ強さだとすれば、ICNIRPの基準は200μTなので、甘いICRINIPの基準さえ倍以上超えてしまっていると見えます。

 これが事実であるかどうか、JR東海の説明では周波数が隠されているので不明なのです。

 これらの事実から、JR東海はリニア新幹線走行の安全性についてその論拠を示さず、説明もしていないということになります。

 次にWHOも勧めている予防原則についてです。環境影響評価書には、「WHOの報告で、慢性ばく露について小児白血病に関する因果関係は限定的で、その他の健康被害は証明されていないと結論できる。継続的研究が必要であり、適切なばく露低減対策を取るべきで、恣意的に低いばく露制限値を採用する政策は是認されない」という引用がなされています。しかしこの引用は部分的であり、WHOの勧告を表すことについて実に不正確なものであり、ここだけを引用して、以下の記述を書かないことは勧告の趣旨を逆に解釈するものです。WHOは同じ勧告の中で以下のように記述しています。

 「電力の健康、社会、経済的利益が侵されないという条件の下で、ばく露を減らすための極めて低コストの予防的措置は合理的であり、正当化される。施策立案者、地域計画担当者、製造業者は、新たな施設の建設、また家電製品を含む新しい設備機器の設計に際しては、低コストでの予防的措置を講じるべきである」。この記載が「結論」であり、WHOが「予防原則」の適用を勧めているものです。この<新たな施設の建設、また家電製品を含む新しい設備機器>とはリニア新幹線の技術と建設にあてはまるものです。『レイト・レッスンズ14の事例から学ぶ予防原則』は2001年に、アスベスト、放射線、オゾン層などの事例から「予防原則」の必要性を明らかにしたレポートで、いずれの事例も早期に警告があったのに「証拠はない」として無視し使用を継続したため被害を広げたという共通点があり、「十分な証拠はそろっていない」などの主張よりも「疑いがあれば避ける」という『予防原則』が提唱されたものでした。水俣病、福島原発事故についても、教訓を学ばなかった事例として挙げられています。

 この考え方は、1992年のブラジル環境サミットの第15原則で「環境を保護するため、予防的方策は、各国により、その能力に応じて適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない」と宣言されたことに由来します。すなわち、環境に取り返しのつかない被害が生じるおそれがある場合には、完全に科学的に被害発生の確実性が証明されなくとも、指摘されているリニアの磁界リスクがあることについて、高い予防的措置を講じなければならないということなのです。このWHOの勧告を受けて日本では経済産業省が基準値をつくりました。環境省は「予防原則を尊重する」と言っています。

 国土交通省はこの「予防原則」を率先して実行し、JR東海を指導するべき立場にあることを裁判所は確認するようお願いします。以上

第17回口頭弁論報告集会
静岡大井川上流の工事事務所流失
台風19号で土砂崩落なども

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 12月20日午後4時から参議院議員会館で報告集会が開かれ、川村晃生原告団長が挨拶し、懸樋哲夫さんのリニアの磁界対策の不備と、芳賀直哉さんからの「大井川の減水対策と工事予定地の現状報告が行われました。

 リニア静岡県民ネットの芳賀直哉さんは、大井川上流でJR東海が準備している非常口や残土置き場の工事準備状況について報告しました。この中で芳賀さんは現地の写真を見せながら、「大井川上流域の三カ所の工事現場では、台風19号の大雨で河岸の数か所で土砂崩落があり、川幅が狭まった。また、流量が増して、希少木であるドロノ木が流失したり取れたりした。南トンネル工事の現場である西俣では、リニア工事に備えて立てた事務所家屋が流されてしまった。県知事や県の環境保全連絡会議、JR東海、国交省が現場を視察した。県としては、国交省だけでなく、環境省や農水省もリニア工事による大井川の減水問題や環境影響について協議に参加するよう求めている」と報告しました。

「中間判決」にどう対応するか

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中間判決について対応を話す関島弁護士(右)と川村原告団長

 報告集会後半で、関島弁護士に川村団長が問う形で、原告数を削減する不当判決が出された場合の原告側の対応について話し合われ、以下の点を確認しました。

 次回の裁判は、裁判長より通告された中間判決になります。

3月30日(月) 14:30東京地裁

リニア全国集会シンポジウム
「南アルプスにリニアはいらない」
1月19日(日)14:00~
麻生市民館大会議室(川崎市麻生区)
*小田急線新百合ヶ丘駅北口より徒歩3分