ストップ・リニア!訴訟 ニュース 第13号

更新:2018/10/10

 ストップ・リニア!訴訟 ニュース 第13号が発行されました。今回の内容は第11回口頭弁論と、同日行われたリニア・シンポジウムについてです。以下、HTML版にして掲載します。 ⇒ PDF

 口頭弁論の準備書18はこちらに置きます。また、シンポジウム会場で配布した資料のうち長野県についての資料をこちらに置きます。


 ストップ・リニア!訴訟 ニュース 第13号

2018年10月1日発行 

 発行 リニア新幹線沿線住民ネットワーク http://linearstop.wix.com/mysite

9月14日 第11回口頭弁論と第6回シンポジウム開かれる!

環境影響評価を逸脱した評価書に基づく事業認可は取り消して事業を終了させるほかありません!

 9月14日(金)「ストップ・リニア!訴訟」第11回口頭弁論が開かれました。

 秋雨前線による雨が心配されましたが、大丈夫でした。13時頃から各地の仲間や支援の団体の方々が集まってきました。


 恒例の地裁前集会は、橋本事務局次長の司会で進められ、川村原告団長からは、これまで地域の被害を伝えてきましたが、いよいよアセス法、全幹法の2つについて具体的に切り込んでいく。弁護団も体制を整え違法性を問う弁論を進めていく。更に証人申請をして私たちの議論の立証性を高めていく、等の主 旨の挨拶がありました。

 その後「JR東海労働組合」「田園調布住民の会」「日本熊森協会」「東京外環道訴訟団」「日本科学者会議」の代表者から、力強い連帯とご支援の挨拶を受けました。

 今回も120名以上の方々が集結され傍聴券の抽選となりました。

 予定通り14時30分に開廷し、冒頭に原告・被告側の提出書証類の確認が行われ、審理に入りました。

小笠原忠彦代理人の意見陳述要約

 原告らが今回、問題にしているのは、リニア中央新幹線が、個々の公共施設の建設と異なり、列島を縦断する国家的な巨大プロジェクトであるため、環境への負荷が著しく、かつ一旦環境が破壊されるとその回復が永久的に困難になること、そのために厳格な環境アセスが求められなければならないということ です。

 山梨リニア実験線について、原告らが主に主張しているのは、山梨リニア実験線の建設について、閣議アセス及び環境影響評価法の規定に基づく環境影響評価が行われていないこと及び、実験線が完成した後にも事後調査がなされていないことを問題にしているのです。

 少なくとも、山梨リニア実験線が本線に接続することが確実になった段階で、環境影響評価法32条の環境影響評価の再実施を行わなければ、手続的に瑕疵があるといえます。原告らはこれまで山梨リニア実験線におけるトンネル工事被害の発生を主張しています。これに対し、JR東海は反論の必要はないとしています。JR東海は、山梨県大月市猿橋町朝日小沢地区の内、中島地区の簡易水道の水源に減水が生じたという限度でしか被害を認めていませんが、これ以外にも水枯れのトラブルは34件にも及んでいます。にもかかわらず、十分な事後調査がなされていません。

 また本線についても、発生土処理についても発生土の処分地が決まっていないことなどから、原告らは発生土の処分について環境影響評価が行われているとはいえないと主張しました。これに対し、JR東海は、「評価書作成後に発生土置き場を新たにJR東海が計画する場合には、場所の選定、関係者との調整を行った後に、環境保全措置の内容を詳細なものにするための調査及び影響検討を、事後調査として実施することにするとしている」と述べているだけです。

 山梨県評価書においてなされている騒音予測では主な代表地点14地点、路線近傍の学校、病院等11地点に過ぎません。最低でも1時間に6本、反対車線を入れると12本の列車が早朝から深夜まで走行することが予想されています。しかもすれ違い走行の場合はさらに騒音は増大します。これがリニア中央新幹線廃業まで、永久的に継続するのです。リニア中央新幹線が国家的プロジェクトであり、環境への負担が空間的にも時間的にも著しく大きいことを考慮すれば、到底十分な環境影響評価がなされたとはいえません。

 橋脚による被害について、JR東海はリニア中央新幹線が阪神・淡路大震災の被害を踏まえて改定された新しい耐震基準によって建設されており、十分な耐震性があると主張しています。しかし、リニア中央新幹線が新しい耐震診断基準に従って建設されることは当然です。問題は、環境影響評価において、地盤の問題をどのように評価して、どのような措置を講じているかということです。

横山聡代理人の意見陳述要約

1. 参加人は、静岡県の環境影響評価について、制度を適切に理解せずにおこなっており、 そもそも環境影響を評価したとは言えません。これを看過した国のリニア中央新幹線工事の認可は取り消されるべきというほかありません。

2. そもそも環境影響評価は、一定規模の事業 を行う際に当該事業でどのような環境負荷が生じるかを調査し、その影響を測定し、どのような対策手段を執ればその負荷を軽減できるかを評価する作業であり「関係法令に従って」事業を行うと結論付けるだけであればそもそも実施する意味がありません。 参加人は、施設の概要. 形状等についても、環境影響評価時点で「仮定の」設備に基づいて環境影響評価をしながらその調査. 測定のデータを提供せず、対応策とその評価の結果を明示しません。
 参加人はなぜデータを開示しないのでしょうか。環境影響評価が適切に行われたというのであれば、その適切性を確認するためにもデータを明らかにするべきです。

3.また、大井川における流量が毎秒2 t減少すると環境影響評価書に記載していますが、その流量減予測は「覆エコンクリート、防水シート、薬液注入実施等の環境保全措置を実施しない条件下での計算」と言います。工事の際にそれらの施工を行うのであるならば、各施工により具体的にどの程度影響が出るかを明らかにして予測結果を示すべきです。参加人のこのような「環境影響評価」はそもそも環境影響評価の名に値しないものです。参加人は形だけ環境影響を調査、予測、評価したと言って、「環境に大きな影響はない」と 結論のみ表示します。どの程度の影響なのか、どのような対策を取るのか、その対策の効果はどの程度か、を明らかにしない参加人の本件環境影響評価は重大な欠陥があると言わざるを得ません。
 また、流量の回復策として認可時には「トンネル内に湧出した水をポンプで汲み上げる」案を提示していました。しかし、これを恒久的に維持すれば巨額の費用が掛かることは誰にでも分かることです。参加人は当初から「導水路トンネル」案を腹案として持っていたのであり、だからこそ認可から僅か2 か月後に導水路トンネル案を提案できたのではないでしょうか。この点に関する環境影響評価を加えると、認可の際に環境への負荷が重大であることが明らかになるため、これを隠すために評価書に記述しなかったとしか考えられません。問題点を隠蔽し認可を騙し取ろうというこのような参加人の本件影響評価は不適切を超えて違法です。
 そして、約1 1 . 4 k mにもなる導水路トンネルについて、事後調査を行ったから問題ないという態度ですが、事後報告書は「認可のための環境影響評価の対象」には含められません。認可後に特段の理由なく新たな工事を登場させて更なる環境への負荷を加えることを許すべきではないのです。

4 発生土置き場の問題も同じ構造です。参加人は最初から扇沢源頭部を発生土置き場にすることは考えておらず、もともと燕沢付近を発生土置き場にしようとしていたとしか考えられません。静岡県知事意見が指摘するように扇沢では山体崩壊の危険があり下流部に重大な環境影響を与える恐れが高いことは現地 を見ればわかることです。参加人は、知事意見を勘案したという形をとろうとして扇沢案を持ち出したとしか考えられません。参加人は準備書面で「検討を進める過程で扇沢を使用する場合と使用しない場合を比較検討した」といいますが、まともに環境影響評価をしたのであれば事前に検討されていて然るべき問題です。

裁判官の発言と要請

 今回の口頭弁論では、二人の代理人の発言後、古田裁判官から興味深い発言と要請があった。古田氏は、この工事の認可が抽象的なレベルの議論で判断された旨、ふと感想を洩らすような口ぶりで述べられた。おそらく、これはこれまでの各地域から提起された具体的な諸問題や諸事実、また弁護士の詳細な準備書面や意見陳述に接して、この認可がひどく甘い判断、基準のもとになされたということを、古田氏が感じ始めていることを示すものであろう。一方原告に対して、早く原告適格を明示するようにと要請があった。これまでの口頭弁論でもうながされていたことだが、これに対して、関島弁護士が、残土の運搬ルートも決まっていない段階で決めるのは難しいと、被告側の杜撰さを突きつつ、くり返し主張した。かなり長い時間の応酬があったが、結局大まかなものを次回までに提出することになった。

第6回シンポジウム リニアに奪われる住民の権利

閉廷後、参議院議員会館へ移動し、橋本事務局次長の司会で裁判の経過報告と第6回シンポジウム「リニアに奪われる住民の権利」が開催されました。


 関島弁護士は、私たちは一貫して国の認可やアセスの対象になっている、リニアの路線、駅、車両基地、非常口、坑口等が全く具体的に明らかになっていないため、何を造るか分からない、環境がどう影響を受けるか分からないのではっきりさせよと何回も主張しているし、書面でも指摘している。今回、国とJR東海から書面が出てきたが「それは環境アセスに書いてあります」というだけです。等々の主旨の報告がありました。その後、小笠原・横山弁護士からも報告を受けました。

 共産党の本村伸子衆院議員も駆けつけて連帯と支援の挨拶を頂きました。

 シンポジウムの司会進行は川村原告団長が務め、各都県の沿線住民の代表が意見を述べられました。沿線からの発言は以下の通りです。


【東京:懸樋哲夫さん】

大田区~世田谷区在住の市民が自宅の真下をトンネルが通ることを最近知り、団体を起ち上げ、国交省とJR東海に働きかけて説明会を開くように要求しています。

【東京・神奈川:矢沢美也さん】

川崎・町田は全部地下なので、リニアが見えない、具体的に人権侵害が分かりにくい。市民に対し、私たちの運動を広め、サポーターを増やす必要がります。

【神奈川:浅香きみ江さん】

神奈川県駅の橋本で工事が始まり、浅深度トンネル上の住宅・マンションの立ち退きの動きがある。車両基地の買収の動きには土地の借地権契約で対抗している。また加山市長に「土砂災害警戒区域、串川氾濫区域に指定されている鳥屋でのリニア車両基地計画は重大な危害が生じる恐れがあり、再検討する事」等の質問書を提出しました。

【山梨:井上英麿さん】

山梨リニア沿線住民の会はこれまで4回にわたり、騒音問題で山梨県知事に要請書を提出し、国の基準を当てはめるのではなく、県として解決できる対策を求めています。県は70dBにしたいようだが、私たちは55dB以下にすべきだと思います。

【静岡:芳賀直哉さん】

静岡市とJR東海の「基本合意書」問題に抗議と詳細説明の要求書を提出しました。工事の円滑な推進ではなく、市民・県民の立場でJR東海と協議してほしい。

【長野:米山義盛さん】

長野県では、約1000万立方米に及ぶトンネル残土処分地が大きな問題です。処分先が確定したのは11万立方米に過ぎず、住民は谷に残土を置く事を心配しています。大鹿村ではリニア道路開発で山崩れが複数個所で起きています。また飯田市の新駅周辺では工事による地域分断で住民の反発が強い。

【岐阜:原重雄さん】

県内に車両基地や変電所が造られるほか、リニア関連道路(濃飛横断自動車道)の建設で80戸が移転を迫られる。高架・橋梁区間が9か所あり、75dB 騒音も予想される。8月26日には山梨、長野の住民が結集し、騒音問題での連絡会を起ち上げました。

【愛知:鳥居勝さん】

リニア新駅は、シールド工法ではできないとの勝手な理由で開削工法での建設になるため、事業地範囲内の住民が「立ち退き」を迫られている。強権的に立ち退きを迫り、生存権を侵している。

 このあと、会場からは「今こそマスコミを通じて私たちの声を広めるべきである」などの声が寄せられました。

 今回のシンポジウムでは、騒音、残土、大深度、立ち退きなど、各地域に共通する問題が浮かび上がりました。この度、山梨、長野、岐阜で騒音に対する共同の運動体が結成されましたが、同様に、それぞれの共通する問題で、県を跨いで横につながり、情報や知恵を強化しつつ、いっそう強い運動体を作ったらどうかというまとめ的提案もありました。

今後の裁判期日


平成28年(行ウ)第211号 工事実施計画認可取消請求事件
原 告  川  村  晃  生     外737名
被 告  国(処分行政庁 国土交通大臣)
参 加 人  東 海 旅 客 鉄 道 株 式 会 社

準備書面 18

2018(平成30)年9月7日

東京地方裁判所民事第3部B②係 御中

原告ら訴訟代理人   
弁護士 高 木 輝 雄
  同 関 島 保 雄
  同 中 島 嘉 尚
  同 横 山   聡
  同 和 泉 貴 士
  同 小笠原 忠 彦
            外

目次

第1 参加人第5準備書面への反論 4
1 同第1(山梨県内における中央新幹線被害の問題点)について 4
(1)山梨リニア実験線環境影響調査報告書は環境影響評価法の規定にもとづく環境影響評価の代替とはなり得ない 4
(2)山梨実験線の実験開始後の調査がなされていないこと 6
(3)小括 6
2 同第2(トンネル工事被害)について 7
(1)トンネル工事被害の事実は環境影響評価法違反を基礎づける事実である 7
(2)発生土置き場の問題点について 8
(3)本線関連の南アルプストンネル掘削による環境アセスメントの問題点 9
3 同第3(日照被害)について 12
(1) 山梨実験線について 12
(2) 本線について 12
4 同第4(騒音被害)について 13
5 同第5(橋脚による被害)について 14
(1)地盤の問題 14
(2)井戸及び水道水源の汚染や枯渇 15
6 同第6(景観)について 16
第2 参加人第6準備書面への反論 17
1 同第1について 17
2 同第2について 17
3 同第3について 17
(1)同1(水環境への悪影響)について 17
(2)同2(発生土置き場)について 20
(3)同3(希少生物への影響)について 22
4 小括 24

第1 参加人第5準備書面への反論

1 同第1(山梨県内における中央新幹線被害の問題点)について

(1)山梨リニア実験線環境影響調査報告書は環境影響評価法の規定にもとづく環境影響評価の代替とはなり得ない

参加人第5準備書面第1は、山梨県内でのリニア中央新幹線における被害状況を主張した原告ら準備書面7に対する反論である。参加人は被告準備書面⑺の被告の主張と同様に、山梨リニア実験線については、いわゆる閣議アセス及び環境影響評価法の規定による環境影響評価は行われていないが、列車の走行による影響等については同法の規定による環境影響評価が行われていると主張する。しかし、原告らが主張しているのは、山梨リニア実験線の建設について、閣議アセス及び環境影響評価法の規定に基づく環境影響評価が行われていないこと、事後にもなされていないことを問題にしているのである。そして、原告らが準備書面16の26頁で主張したとおり、山梨リニア実験線は純然たる実験施設ではなく将来の営業線として予定されていたこと、実態とすれば「対象鉄道建設事業にかかる工事の実施」(鉄道主務省令21条1項1号)そのものであること、ほとんど山の中にトンネルを作って走行実験を行うのであるから、トンネル工事による環境への影響が心配されること、平成59年8月には閣議アセスが出来ており、大規模な事業には閣議アセスを適用することが求められていたことから、列車の走行による影響等についてのみの環境影響評価をしたことは著しく不当である。しかも、その範囲は「計画路線(地上部)については、環境影響評価関連図で示した実線を中心とする約22mの幅の区域」に限られ、トンネルに関して「坑口については環境影響評価関連図に示した実線と点線の接続部の中心から半径100mの区域」に限られている(乙86・7-7頁)。これでは、リニア新幹線の用地幅が約22mであることから、計画路線の地上部分の用地幅についてだけの環境影響評価に過ぎないといえる。実態としてはなんらの環境影響評価もなされていないと言っても過言ではない。

   なお、参加人は被告準備書面⑺の主張から、「平成2年(1990年)当時、環境保全に関して法律上定められた手続きが存在しない中で、建設及び実験中の周辺環境の保全に十分配慮すべく、整備五新幹線に関する環境影響評価指針を参考として、環境影響調査を実施し、その結果を平成2年(1990年)7月付『山梨リニア実験線環境影響調査報告書』(乙76)としてまとめている」としている。そもそもリニア新幹線が従来の新幹線と駆動方式も設備も速度もまったく異なるにもかかわらず、漫然と整備五新幹線に関する環境影響評価指針を参考とすること自体問題である。しかも、この報告書は、同年6月25日の山梨リニア実験線の建設計画等の承認手続後の同年7月に出された報告であり、内容も文献を引用ないし転載したものであり、とうてい「調査」といえるようなものではない。結論も、ほとんどの項目について、抽象的に「影響はほとんどないと考えられる」としている。さすがにトンネル工事による水源や河川についての影響については、具体的な地域について影響を受ける危惧について述べている(乙76・98頁から99頁)。しかし、予想される地域を具体的に調査しているわけではなく、単に「影響を受けることが予測される」と言うだけで、具体的な影響を評価ないし予測してはいない。「現時点で工事に起因する枯渇等の範囲、度合いを明確には判定できない」と評価や予測を放棄し、またその対策も、「今後さらに調査を行い、その結果により支障をきたすことが明らかな地区については、工事着工手前に必要な対策を講ずるものとする」と抽象的な文言に終始している。とうてい、いわゆる閣議アセス及び環境影響評価法の規定による環境影響評価に代替できるものではない。なお、この山梨リニア実験線環境影響調査報告書はまえがきで「なお、実験線は将来中央新幹線の一部として活用される可能性が強いが、その場合の環境影響評価の扱いについてはその時点での状況を踏まえ、別途、関係機関との間で取り決めることになると考えられる」としている。この報告書ですら、実験線が本線になることになった段階では、正式な環境影響評価法の規定による環境影響評価がなされることを予定しているのである。山梨リニア実験線が本線となることが決定している以上、この報告書があるから正式な環境影響評価法の規定による環境影響評価がいらないというのは全く理由にならない。

(2)山梨実験線の実験開始後の調査がなされていないこと

  山梨リニア実験線については、閣議アセスまたは環境影響評価法による環境影響評価がなされていないのであるから、少なくとも、山梨リニア実験線が本線に接続することが確実になった段階で、環境影響評価法32条の環境影響評価の再実施を行わなければ、手続的に瑕疵があるといえる。事後調査の実施については、中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書【山梨県】に対する知事意見(丙3号証の1。以下「山梨県知事意見書」という)の6-3-9乃至10頁において、山梨県知事が強く求めているところである。

その上、騒音に関する「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年7月29日付環境庁告示第46号)は、新幹線鉄道騒音に係る環境基準を住居地域で70デシベル以下、商工業地域では75デシベル以下とし、達成目標期間を「新設新幹線鉄道に係る期間」については「開業時に直ちに」としている。参加人は、山梨リニア実験線について、被告及び参加人が行ったとする列車の走行による影響等についての環境影響評価と実際の実験線の走行による騒音を調査し、実験線の開業後、75デシベル以下の環境基準を達成するべきであった。このような、事後調査を実施していないことは、「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年7月29日付環境庁告示第46号)に違反している。

(3)小括

以上のとおり、山梨リニア実験線の問題点としては、そもそも「山梨リニア実験線環境影響調査報告書」というおよそ環境影響評価とはいえない報告書を作成したのみで、閣議アセスはおろか、環境影響評価法に基づいた環境影響評価は一切行われていないことにある。

さらに環境影響評価法が定める「事後調査」を実施しないことも違法である。上記のとおり「新幹線鉄道騒音に係わる環境基準」の達成目標は、新設新幹線鉄道の場合は開業時直ちにとなっていて、環境影響評価書データと走行実測データの突き合わせは必須要件である。もとより事後調査を行いさえすれば環境影響評価を行わなかった上述の瑕疵が治癒されるものではないが、事後調査すら行わないのであれば裁量の逸脱濫用はなおさら大きいものと言わざるを得ない。

以上のとおり、本線の7分の1を占める山梨リニア実験線については環境影響評価が行われていないにもかかわらず、本線の認可である本件認可がなされており、裁量の逸脱濫用があり本件認可は環境影響評価法に違反する。

2 同第2(トンネル工事被害)について

(1)トンネル工事被害の事実は環境影響評価法違反を基礎づける事実である

原告らは準備書面7において山梨リニア実験線におけるトンネル工事被害の発生を主張した。これに対し、参加人はトンネル掘削に伴う被害が実際に発生しているにもかかわらず、「この点の原告らの主張は、JR東海の行った環境影響評価に違法があることを主張するものではなく、環境影響評価法及びその関連法令との関係で本件認可処分がいかなる理由で違法であると主張するものであるか不明であるで、反論の要を認めない」と主張する。

   原告らは、山梨リニア実験線において、閣議アセスはおろか、環境影響評価法に基づいた環境影響評価は一切行われていないこと、さらに環境影響評価法が定める「事後調査」を実施していないこと、「新幹線鉄道騒音に係わる環境基準」に基づく調査もなされていない。こうした状況で、山梨リニア実験線環境影響調査報告書の予想したトンネル工事被害が発生しているのである。同報告書は「(4)環境保全対策」として「今後さらに調査を行い、その結果により支障をきたすことが明らかな地区については、工事着工手前に必要な対策を講ずるものとする。また、その他の区域においても万一工事中に明らかな影響が発生した場合には、従来の鉄道建設における例に準じて対策を講じるものとする」としている。水源や河川の環境に対するトンネル工事被害の発生は、同報告書による事前の予測が不十分で、事前に被害の発生の回避または低減がなされていなかったこと、その後の対応が不十分であったことを証明している。

これは環境影響評価法違反の不十分な環境影響評価にもかかわらず、認可された、本線工事においても同様もしくはそれ以上の被害が発生する蓋然性が非常に高いことを示す事実であり、本件認可を取り消すべき根拠である。

(2)発生土置き場の問題点について

   原告が準備書面7において主張した山梨実験線工事による発生土置き場について環境破壊が実際に発生しているにもかかわらず、これらの発生土置き場について事後的にも環境影響評価が行われていないことについて、参加人第5準備書面において、何の反論もない。

原告らが準備書面7で主張した、実験線だけでなく本線についても不可欠である発生土置き場について環境影響評価が行われていないことについて、参加人第5準備書面は、山梨県評価書(丙3の1・5-102・表5-4-3-1⑵)を引用して、「これらの付帯設備について、評価書作成までの間に位置等を明らかにすることが困難な場合、必要な環境保全処置を評価書に位置付けた上で、その環境保全措置の効果を事後により確認する必要がある」との国土交通省の意見を根拠とし、山梨県評価書の記載(丙3の1・10-11~23)を引用して、必要な環境保全処置として抽象的な調査手法を述べて、事後調査で足りるとしているだけである。

しかし、そもそもトンネル工事による発生土の量は路線の位置が決まれば当初から十分に想定できるものである。従って、工事認可に先立って必要な発生土置き場を確保することは十分に可能であった。従って、発生土置き場について「これらの付帯設備について、評価書作成までの間に位置等を明らかにすることが困難」であったとはいえない。上記の国土交通省の意見は環境影響評価の例外を定めるものであり、事後調査はあくまでも例外である。いかに、必要な環境保全処置として抽象的な調査手法を述べても環境影響評価としては不完全であるところ、山梨県の本線トンネル工事による発生土置き場の環境影響評価については、原則と例外が全く逆になっているのである。

参加人第5準備書面は、発生土置き場を新たに計画した場合には「場所の選定、関係者との調整を行った後に、環境保全措置の内容を詳細なものにするための調査及び検討の結果をJRウエブサイトで公表しているとし、「当該調査及び影響検討の結果を、地元住民に対し、工事説明会で説明を行った上で資料として取りまとめ、当該資料を関係する地方公共団体に送付するなど対応も行っている」としている。しかし、これらのことは当然であり、事後的な調査がなされたとしても事前の環境影響評価に代替できるものではない。むしろ、地元住民に対する発生土置き場の環境影響評価について説明が十分になされてはいない。また関係する自治体に送付されたという資料も明らかにされていない。

参加人第2準備書面は、山梨県大月市猿橋町朝日小沢地区の内、中島地区の簡易水道の水源に減水が生じたという限度でしか被害を認めていない(参加人第2準備書面41頁から42頁)。しかし、訴状や原告ら準備書面7で主張したとおり、これ以外にも水枯れのトラブルは34件にも及んでいる(甲CY1、甲CY2)。にもかかわらず、十分な事後調査がなされていないのである。

(3)本線関連の南アルプストンネル掘削による環境アセスメントの問題点

ア トンネル掘削による水枯れ、出水の問題

(ア)環境影響評価書の問題点

山梨県評価書において地下水の水位及び水質についての環境影響評価を見る限り、合理的な環境影響評価がなされているとはいえない。

すなわち、まず水位に関する文献は存在しないとしている(丙3の1、8-2-3-2頁の4)調査地点)。そして「高橋の水文学的方法」の当否はおくとしても、高橋の水文学的方法による予測検討範囲の図(丙3の1・8-2-3-16乃至19頁図8-2-3-3、8-2-3-4⑴⑵、8-2-3-5)と水位・水質の調査地点との図(丙3の1・8-2-3-5乃至8頁図8-2-3-2⑴ないし⑷)を比較すると、と調査地点01から12までの地点の内、予測検討範囲にあるのは、07、06にすぎない。すなわち山梨県評価書では「地質等調査結果を踏まえ、水文的地質的検討を行う地域を以下のとおり区分した」としているのに、実際の水位・水質調査地点12のうち、この予測検討範囲の中に入っているのは、06,07のわずか2点しかない。しかも、地下水位を示すものとして表に掲げられているのは地点04の富士川町仙洞田のみである。この地点は変電施設や保守基地に近く、高橋の水文学的方法による予測検討範囲にも近いが、地下水位は地表から23.2mから24メートルと比較的浅い(丙3の1・1-8-2-3乃至12頁表8-2-3-9(1)。トンネル工事被害や関連施設の工事により水位の低下する被害の発生も予想される。このようにトンネル掘削による水枯れ、出水の問題についての環境影響評価は全く不十分なものである。

(イ) 事後調査の問題点

原告らが準備書面7において、地下水の水位や地表水の流量に関する事後調査について、3年間4季の調査を基本とすることを不十分と主張した。これに対する被告及び参加人の反論は山梨県評価書の記載を引用して「状況に応じて調査期間は別途検討する」と記載されているのだから原告らの主張の前提に誤りがあるとする(参加人第5準備書面10頁15行目から19行目、被告準備書面⑻16頁10行目から16行目)。しかし、原告らが主張するのは3年で事後調査が終了する根拠が明確ではないことを問題としているのであるから、「状況に応じて調査期間は別途検討する」と記載されているのだから問題ないとするのは反論になっていない。

また山梨県評価書は「状況に応じて」としているが、「状況」ということはどういうことなのか、「応じて」とあるが、何時、誰が「状況」を把握して報告するのか、調査期間はどのように検討されるのか明らかにされてはいない。このような抽象的な文言による対応では、3年以降の対応策が講じられていないに等しい。

被告は原告ら準備書面7で主張した「地下水位の変化については、すでに実験線での複数箇所の知見があり、それを生かして環境影響評価を行っているというが、いったいどのように生かされているか不明である」という主張に対し、「山梨県評価書には、そのような記載は見当たらず、原告らが山梨県評価書等のいかなる記載をもって、このような主張を行っているかは不明である」と述べている。

しかし、補正後評価書(丙3の1・6-3--11頁)では、山梨県知事意見で、実験線で得られた知見の活用を求められたことに対し、参加人は、環境影響評価にあたっては山梨リニア実験線の延伸更新工事や走行試験で得られた知見を反映しているとし、地下水を利用した水資源への影響については資料編に実験線における水資源対策について影響と対応を記載し、実験線での知見を活用していると述べているのである。

このように実験線での知見の活用の記載を被告が否定するということは、被告が山梨県評価書において実験線での地下水の変化の知見を生かして環境影響評価をおこなっていないことを認めていることになるのである。

イ 発生土処理について

   発生土処理について原告ら準備書面7で原告らが指摘した発生土の処分地が決まっていないことなどから、発生土の処分について環境影響評価が行われているとはいえないとの主張に対し、参加人第5準備書面は、「評価書作成後に発生土置き場を新たにJR東海が計画する場合には、場所の選定、関係者との調整を行った後に、環境保全措置の内容を詳細なものにするための調査及び影響検討を、事後調査として実施することにするとしている」と述べているだけである(参加人第5準備書面14頁1行目から8行目)。事実上、発生土置き場について環境影響評価が行われていないことを自白するものである。

3 同第3(日照被害)について

(1) 山梨実験線について

    日照被害について、その補償をすることは当然のことである。原告らは山梨リニア実験線について日照についての深刻な被害が発生しているにもかかわらず、環境影響評価が行われていなかったことを問題にしている。

参加人の反論においても、日照被害についての補償が一時期の限定した損害補償であることは明らかであり、抽象的な補償基準を述べているだけで環境影響評価が行われていなかったことについての反論になっていない。

(2) 本線について

    公共施設の建設において、国土交通省の通知「公共施設の設置に起因する日陰により生ずる損害等に係る費用負担について」や「山梨県建築基準法条例21条の2による規制」に従うのは当然のことである。原告らが問題にしているのは、リニア中央新幹線が、個々の公共施設の建設と異なり、国家的な巨大プロジェクトであるため、環境への負荷が著しく、かつ一旦環境が破壊されるとその回復が半永久的に困難になること、そのために厳格な環境アセスが求められなければならないということである。

にもかかわらず、山梨県評価書の日照についての環境影響評価においては、単に橋梁、高架橋と施設(保守基地、変電施設)についてわずか26の地点で、その高さを示しているだけである(丙3の1・8-3-4-9頁)。その26地点に限っても具体的な日影図が作成されているわけではない。これでは、被害が予想される住民にとっても具体的な被害予想すら十分にできず、事前に補償額の予測すらできない。とうてい十分な環境影響評価の予測がされているとはいえない。

すでに山梨リニア実験線が存在する以上、山梨県評価書作成する時点で、本線についても具体的な構造物の形状が明らかになっているはずである。環境への負荷を具体的に回避低減するための措置として、具体的にどのような構造物にしたのか、建設に対してどのような配慮をしているか日影図を具体的に示して明らかにされなければ、具体的に回避または低減が図られているといえない。しかし、山梨県評価書において、具体的な日影図は県民に対して全く示されていない。

4 同第4(騒音被害)について

山梨県評価書においてなされている騒音予測では主な代表地点14地点、路線近傍の学校、病院等11地点に過ぎない(丙3の1・8-1-2-72~73頁)が、主な代表地点14地点の内7地点、路線近傍の学校、病院等11地点の内2地点で70デシベルを超える騒音が予想されている。また主な代表地点14地点の内7地点の内6地点において75デシベル以上の騒音が予想されている(丙3の1・8-1-2-72~73頁)。

すでに述べたとおり、騒音に関する「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年7月29日付環境庁告示第46号)は、新幹線鉄道騒音に係る環境基準を住居地域で70デシベル以下、商工業地域では75デシベル以下とし、達成目標期間を「新設新幹線鉄道に係る期間」については「開業時に直ちに」としている。この基準を超える騒音が山梨県評価書において予想されているのである。

これに対する環境保全措置の検討が山梨県評価書においてなされているが、その効果については、山梨県評価書においていずれも「騒音を低減できる」とか「騒音の影響が低減できる」としているのみで、各地点において何デシベルの騒音以下にできるのかという具体的な言及がまったくない(丙3の1・8-1-2-87乃至88頁・表8-1-2-32⑴ないし⑹)。

にもかかわらず、山梨県評価書における予測値について「これらはあくまでもピーク値であり、その値が観測されるのは列車が走行するきわめて短い時間にとどまる」こと、「環境保全措置を確実に実施することから、列車の走行に係る騒音の環境影響について低減が図られていると評価する」としている。しかし、いかに短時間とはいえ、最低でも1時間に6本、反対車線を入れると12本の列車が早朝から深夜まで走行することが予想されている。しかもすれ違い走行の場合はさらに騒音は増大する。これがリニア中央新幹線廃業まで、永久的に継続するのである。リニア中央新幹線が国家的プロジェクトであり、環境への負担が空間的にも時間的にも著しく大きいことを考慮すれば、到底十分な環境影響評価がなされたとはいえない。

5 同第5(橋脚による被害)について

(1)地盤の問題

  参加人はリニア中央新幹線が阪神・淡路大震災の被害を踏まえて改定された新しい耐震基準によって建設されており、十分な耐震性があると主張する。しかし、リニア中央新幹線が新しい耐震診断基準に従って建設されることは当然である。問題は、環境影響評価において、地盤の問題をどのように評価して、どのような措置を講じているかということである。

山梨県評価書はリニア中央新幹線の本線が予定されている甲府市南部は地盤沈下の見られる地域であることを指摘している(丙3の1・4-2-1-128)。その地盤沈下について、山梨県評価書は地盤沈下にかかる参加人の対策について何も述べていない。

また、参加人は山梨県評価書に「地質の状況により基礎杭を行う場合があることを記載している」述べている。しかし、橋梁の安全性のために、地質の構造によって必要な場所に基礎杭を行うことは当然である。問題なのは、事前の具体的な調査がなされておらず、どの部分に基礎杭を行うか全く不明な点である。また、基礎杭の必要な場合は、地盤が弱く、基礎杭を行うことによる出水の恐れ、周囲の水源への影響、橋梁工事や完成後の列車による振動被害が予想されることから基礎杭を行う場合が特定されなければ、環境影響評価としては不完全なものである。

(2)井戸及び水道水源の汚染や枯渇

    参加人は甲府盆地南部において、高架橋の基礎により、水源となっている地下水が汚染される危険や水脈の切断で水源自体が枯れる危険について、知事意見の指摘に従って、山梨県評価書に詳細な追記を行っていると主張している。

しかし、山梨県評価書本編12-85頁は「追記」とあるだけであり、同資料編環8-3-1乃至7頁はわずか7頁であり、しかも一般的な掘削工事概要図や地層図だけであり、詳細な追記があるとはいえない。これらの資料を見るだけでも、基礎の掘削部は5mであったとしても、基礎杭やケーソン基礎は地下20mから30mに達する深さになる可能性があること(丙3の2・環-8-3-2頁乃至3頁・図8-3-1⑴、同8-3-1⑵)、ケーソン基礎は「河川部以外でケーソン基礎を採用する場合がある」とされ、基礎杭も「地質の状況により基礎杭を行う場合があることを記載している」とあるだけで具体的な場所が決まっていないことから基礎杭やケーソン基礎が深層帯水層にも影響を与える可能性がある。また、限られた現地調査の6地点についてさえ自噴井の深さは10m、16.5m、非自噴井での深さ6mと浅井戸とあり、4つの井戸がリニア新幹線の高架橋の基礎により大きな影響を受ける浅層帯水層に属していること(丙3の2・環8-3-7)から、必ずしも「主要な井戸は深井戸であり、これらが取水対象と考えているのは、難透水層で浅層帯水層と区分される深層帯水層と考える」(丙3の2・環8-3-1)とはいえない。さらに、甲府市盆地の深井戸の断層図(丙3の2・環8-3-4頁・図8-3-2⑴)によれば、中央市中楯(旧玉穂村中楯)は20メートルの深さで深層帯水層に達してしまうことから、主要な井戸である深井戸が橋脚工事により大きな影響を受ける可能性がある。

こうした地下水の水質及び水位の予測について、山梨県評価書本編6-3-41には山梨県知事意見と事業者の見解が記載されているが、事業者の見解は甲府市南部における高架橋の基礎工事の一般論を述べているにすぎず、具体的な記載はなく、基礎杭を行う場合についての言及もない。まったく不十分なものである。

6 同第6(景観)について

   参加人は「原告らが『イメージのみで、現在の写真がなく対比できない』としているのは景観の変化の予測についての記載ではなく、長大橋梁の設計の基本案についての記載であり、現在の写真と対比されていないのは当然である」と主張する(参加人第5準備書面23頁13行目から17行目)。しかし、原告らが主張しているのは、現在の写真と評価書資料編に記載されている写真を対比して記載しなければ現在ある景観がどのように変わるのかは認識できないと主張しているのである。現在の景観を加工したイメージ写真と対比するのであるから、「現在の写真と対比されないのは当然」とはいえない。

   また、参加人は「山梨県知事意見を勘案して準備書の記載事項について検討を加え、修正を必要と認めたものについては、環境影響評価法21条1項各号所定の修正の区部に応じた措置をとっており同項の規定に従った対応を行っている」としているが、事業者は駅部の景観については予測の対象外としていることを山梨県評価書でも記載し、「駅予定地周辺で多くの人の集まる施設であるアイメッセ付近からの眺望状況、高架橋及び駅が出来上がった際の概ねの高さ、現時点で想定する駅の構造状況を、資料編に記載しました」としている。しかし、山梨県評価書資料編(丙3-2環17-2-2頁・図17-2-1)の駅付近の眺望イメージのイメージ図は、現在の眺望写真にリニア新幹線の高架橋を点線で示したに過ぎない。これと対比した形でフォトモンタージュを作成するならば、日本百名山に挙げられている八ヶ岳および茅が岳などの山々はほぼ完全に見えなくなる。南アルプスも山裾は見えなくなり、甲府盆地を巨大な壁が横断することが明らかになるにもかかわらず、フォトモンタージュを作成していないのは、景観についての環境に及ぼす影響を少なく見せようとするもので極めて不十分な評価である。

第2 参加人第6準備書面への反論

1 同第1について

   参加人は自らの判断での不適切な評価を前提にしており、違法は明らかである。

2 同第2について

参加人は、施設の概要等について、評価当時の仮定的な具体的形状すら明らかにせずに環境影響評価を行ったと主張するが、日照や運行に際しての騒音・振動などは、施設形状により大きく相違が生じるのであり、どのような施設を仮定して影響評価を行ったかが明らかにされねば、環境影響評価を実施する意味がない。もとより日影図が作成されている以上、建設する施設を仮定していることは明らかであるから、なぜ仮定施設を明示しないのかは極めて疑問である。この点をとらえて裁判所も明らかにすることを求めている。参加人の対応は極めて不適切であり、環境影響評価の趣旨を没却するものであって、この点が明らかになっていない本件影響評価は瑕疵がある。

3 同第3について

(1)同1(水環境への悪影響)について

参加人は、静岡県環境影響評価書の大井川の流量減予測が「覆工コンクリート、防水シート、薬液注入実施等の環境保全措置を実施しない条件下での計算」と主張する。そもそも環境影響評価は環境に対する影響を予測し、調査し、評価するものであるが、工事を行なえば環境への負荷は当然かかるのであり、どのような対策を採ってどの程度影響を低減できるかが記載されていなければ実施する意味がない。参加人は形式的に環境影響を予測、調査、評価したとするのみで、その本質を見誤っている。その意味で本件環境影響評価は重大な瑕疵がある。

作成当時から参加人には、覆工コンクリート、防水シート、薬液注入実施等の環境保全措置が採用できる乃至必要であることを理解していたのであるから、これら対策に基づく「評価」を行わないことは環境影響評価制度を没却すること甚だしい。補助工法を採用するのであれば、どのような補助工法を採用すればどの程度環境負荷が低減できるかの予測・評価を示すべきである。

また、実際には本件認可時には「代替水源の確保」と「トンネル内に湧出した水をポンプで汲み上げる」案を記載していた。トンネル工事では工事中に湧水が生じることは常識であり、国鉄時代から多数のトンネルに関与してきた参加人がこのことを知らないはずがない。そして、大井川水系全体から考えて、川の減水に対しては、代替水源はありえないので、当初はポンプアップが唯一の大井川の減水対策とされていたはずであった(丙4の1・8-2-4-13頁)。しかし、これを恒久的に維持することは参加人に多大な経済的負担を課すことになる。従って、参加人は「導水路トンネル」案を提示してきたものであるが、この程度の対案は、これまで多くのトンネル工事に関与してきた参加人にとっては容易に思いつく提案である。これは参加人の対策が「…トンネル内に湧出した水をポンプで汲み上げるなどして大井川に戻す方法も選択肢として考えている。」(下線引用者 丙4の1・8-2-4-13頁)とあり、既に腹案を有していたと考えるべきである。従って、この点に関する環境影響評価を行い、認可の際に環境への負荷が過大でないことを装うために評価書に記述しなかったとしか考えられない。その証拠に、認可から僅か2カ月後の平成26年12月19日の「第1回大井川水資源検討委員会」で参加人は、導水路トンネル案を提示して見せたのである(甲C―S5-3)。詳細は原告準備書面10の2頁以下を参照されたい。参加人は、主務省令26条の「実行可能な範囲内」という文言を「経済的利益に反しない・コストの負担のない」という程度にしか理解していないとしか考えられない。このような参加人の本件影響評価は不適切を超えて違法としか言えない。

また、約11.4㎞にもなる導水路トンネル(このトンネル長についても事後調査報告書には記載されていない。)について、事後調査を行って事後調査報告書(丙64-1、丙64-2)を作成したことは事実であるが、そもそも認可後2か月で前述のポンプによる汲み上げに併存して導水路トンネルの発案があったこと自体、前述の通り当初から導水路トンネルを計画していた証左であり、そうであれば環境影響評価書作成時から導水路トンネルの評価を行っていなければならなかったのである。ただ、参加人はポンプアップについて否定はしないが、「…中下流域の皆さんの水資源利用に影響がある場合、影響が出そうな時にはポンプアップすることを考えておりまして…」(丙15・22頁)とあり、実施の有無は参加人に委ねられており、その十分な実施には疑問がある。事後調査は認可前には生じなかった事態に対する例外的対応であり、工事認可に際しての環境影響評価を潜脱することを許すシステムではない。

なお、大井川の水が毎秒1.33㎥戻るとしても、静岡県はこれに納得しておらず、全流量の回復を求めており、本件工事への協力を拒んでいることを付言しておく。

(2)同2(発生土置き場)について

この点も大井川の水量と同様、参加人は最初から扇沢源頭部に発生土置き場を設定することは考慮しておらず、燕沢付近を発生土置き場とする想定であったとしか考えられない。静岡県知事意見が指摘するように扇沢では山体崩壊の危険を招来し下流部に重大な環境影響を与える恐れが高いことは専門家の助言など得るまでもなくわかることである。参加人は、知事意見を勘案したという評価を得るために、いわばダミーとしてこの案を提示したとしか考えられない。真面目に環境影響評価に取り組んだとは言い難い態度である。その意味でも本件環境影響評価が真剣に環境への負荷を調査し、予測し、評価したなどとは言えない違法なものと言わざるを得ない。「検討を進める過程で扇沢を使用する場合と使用しない場合を比較検討した」(参加人第6準備書面12頁)というが、認可を得た後にいつ、どこで、どのような協議をし、どのような比較検討を実施したのか詳細を明らかにすべきである。仮に検討対象が「発生土置き場の検討状況について 平成27年11月30日」にある「工事範囲の縮小」「保全対象種生育地回避」「CO2排出量の低減」(丙16・20~21頁)にあるのであれば、これらは環境影響評価書提出後に生じた目新しい事象ではなく、環境影響評価時点で当然に「比較検討」できた事項である。加えて、発生土量が約360㎥と予測できているのに、想定盛り土容量を706㎥にする意味はない(丙16・7~8頁)。第5回静岡県中央新幹線環境保全連絡会議において、和田会長が「…通常はアセスメントっていった場合には、こういう案がある。それ、幾つか腹案があり、あるいは3つとか、4つとかに、幾つかの案があって、その影響がどういうふうに、どこにどういう影響があるかっていうことを議論するっていうのが、今、我々が今までやってきたものだし、それから、こうやって集まっていただいて、そして、違ういろんなご意見をいただいて、そして、さらにその影響に関しまして低減する。(中略)特に発生土置き場に関しましては、大きく変更することになるわけですね。ですので、そこの所に関しまして、幾つか、そういう候補としては幾つかありましたけれども、それの影響についての議論は、アセスのことでも何回かやっておりわけですが、そういうプロセス上の問題…」(丙15・35頁)と述べたように、参加人が一方的に具体性のない事業計画を押し付けるやり方を批判しているとおりである。

そして、燕沢の環境保全の関係で、静岡県知事から配慮を求められていたオオイチモンジの保護について「事後調査」を行うとしている。ここでも、参加人は環境影響評価に基づく認可を潜脱するための手法がとられている。燕沢にオオイチモンジが生息していることは事前に分かっていたことであり、その生息にどの程度の工事であればどの程度影響を与えるかを見極めるのが環境影響評価である。これをしも「事後調査」で済ませられるのであれば、認可前の環境影響評価書の作成など何ら意味のないものとなる。参加人の行為は、認可のための審査を潜脱する以外の何物でもない。

災害の危険性についても、静岡県知事は土石流の発生や下流側への影響の配慮を指摘している。これに対し参加人は「発生土置き場の擁壁の位置や形状、盛土の工法等を考慮すれば、土石流の拡散・減速の役割は果たせる」と述べるにとどまり(丙4の1・6-3-27頁、具体的にどのような擁壁の位置・形状、盛土の工法を行えばどの程度防止できるかなどについての調査・予測・評価を全く行っていない。これでは燕沢について「環境影響評価」をやったとは評価できないと言わざるを得ない。結局「こんな対策が考えられる」と述べているだけで、具体的にどの程度の環境負荷に対してその低減策を考慮した形跡は微塵も見られない。事後調査報告書での報告では、認可の際に評価を受けられないのであるから、いかに正確であろうとも意味はない。

景観についても、当初から候補地に挙がっていたにも関わらず燕沢への「事後調査」が行われている。それで足りると参加人は考えており、従前述べたとおり「当初より発生土置き場の予定地に含まれていた」場所であるにも関わらず、認可前には十分に調査せず潜脱するという手法が採られているのである。

(3)同3(希少生物への影響)について

参加人は、作業員が大量に長期にわたり生活排水が生じることの影響について、静岡県知事も高度処理設備の導入、影響低減措置を求めている。しかるに、参加人はこれを勘案したとして、知事意見に対する事業者見解で調査、予測、評価をし、モニタリングすると述べるに止まり、具体的な調査、予測、評価を行わない(丙4の1・6-3-11頁)。最大700人が生活すればどの程度の生活汚水が出るか、その場合にどのような影響が出るか、どの対策を採ればどの程度影響低減ができるかを示すのが環境影響評価である。「いろいろな形で工夫できる」というのは単なる「方針」であって具体的な「対応策」ではない。

また、大井川の水量の減少によるヤマトイワナ、アカイシサンショウウオ等の絶滅危惧種について、参加人は工事中はポンプ等で、工事終了後は主に導水トンネルで大井川に水量を7割ほど戻す方法を採用するものであるから影響はないと考えているが、水量が戻るまでの川の部分に生息する生物の調査や水生生物に影響を与えかねない戻された水の水温や水質の変化、酸素含有量の変化などについて十分に言及されていない。参加人は、事後調査報告書のうち、水の流量と燕沢に発生土置き場を設けた場合の椹島周辺の水深の土砂流出シミュレーション、燕沢の発生土置き場の景観のフォトモンタージュを行った資料しか提出していない(丙64-2)。実際は、生物関連の調査も実施されている。しかし、調査対象として①工事用道路坑口、②導水路トンネル排水口周辺及び③新しい発生土置き場用地に限定した形でしか追加生物調査がされておらず、上記の減水や水温等の生物的な影響について具体的に調査した形跡はなく、水生生物(両生類・水生昆虫・魚類等)の検討結果に「トンネルからの湧水と河川の表流水との温度差はほとんどないことから、本種の生息環境への影響は及ばない。」(工事の実施)、「トンネルの存在により本種の生息環境である河川の一部で流量が減少すると考えられるものの同質の環境が広く残されることから、本種の生息環境への影響は小さい。」(トンネルの存在)と結論付ける(甲CS14・4-1-4-1-51~53、56、59頁)。第5回静岡県中央新幹線環境保全連絡会議で、福田委員から「…私が心配するのは、おそらく、この導水路トンネルを掘る時に、1番心配してるのは、自然の沢枯れが起きないかと。そういうことによって、いわば、ここに貴重種があったり、魚がいたり、1種の生態系がここにできてるわけですから、それが1番心配なんです。水資源のものより、自然環境の方が言った方がいいと思うんですけど。…」(丙15・16頁)と指摘されたにもかかわらず、これを無視して導水路トンネル等の影響調査に終始した。そしてトンネルからの湧水の流量が多く、温度差が生じるときは外気に晒して温度を調整するとしている(甲CS14・4-1-4-1-67頁)。

参加人は「希少動植物に対して、静岡県版レッドデータブックに記載の保護方針に従って、先ずは生育地、生息地を回避することや改変区域をできる限り小さくすることで影響の回避や低減を図ります。」(参加人準備書面6・24頁)と言うが、これは「方針」であって、調査、予測、評価を実施する「環境影響評価」ではない。この程度の常識論で誤魔化すことは許されない。参加人は具体的にどの程度の対策を採れば、どの程度具体的に影響を回避・低減できるかを全く示しておらず、およそ環境影響評価を実施したとは言えない。

さらに参加人は、重要な種の移植について安易に実施しないよう指摘したことについて原告を批判するが、これは「回避、低減、代償」の順での検討が原則という当然の指摘である。

また、生物多様性オフセットについては、代償措置の最たるものであり、現在の対象地域外でも生息環境を構成し、その維持を心がけるというものであり、既に多数の諸外国で採用されている。移転先の環境への影響にも配慮せねばならない点で実施者の負担は人的物的に大きいといえる。参加人指摘の「環境影響評価法に基づく基本的事項等に関する技術検討委員会報告書」(平成24年3月)においても「慎重な検討を要する」と述べ、生物多様性オフセットを禁じているわけではない。従って、参加人が必要とあれば、負担を厭わずにこの手段に踏み込むことを検討するよう指摘したものである。わが国では環境保全に対する意識がまだまだ低いので生物多様性オフセットの採用が躊躇されている面があると考えるが、相模原で車両基地周辺にビオトープを新規建設する予定を立てているなど、参加人は試験的に環境改編を行っており、場合によっては慎重な配慮のもとで実施されるべきである。

4 小括

   以上述べたように、参加人の静岡県における本事業の環境影響評価は、環境への負荷とその回避・低減・代償の調査・予測・評価を行ったとは到底言えないだけでなく、認可に際して予測すべき事項を隠蔽するなどして環境影響評価を潜脱したというほかないものである。このような瑕疵のある環境影響評価に対して行われた認可は適法なものとは考えられず、取り消すほかない。

以上


リニアより住民の安全と日常生活

2018年9月14日 飯田リニアを考える会

トンネル残土は住民にとって負の遺産

 長野県では、約1000万立米におよぶリニアのトンネル残土の処分地が大きな問題です。JR東海は、作業トンネル近くの谷に埋めようと考えていたようですが、処分先が確定したのは約11万立米にすぎません。住民は谷に残土を置くことを心配をしています。昭和36年の豪雨災害の記憶があるからです。リニアは賛成でも残土は困るとの声もあります。残土を谷に置けば、将来にわたり流域住民の生命財産を脅かします。

 豊丘村の小園地区では、集落から上流にある2つの谷に残土を置く計画がありました。頭の上に金魚鉢を置いて眠るようなものと、心配した住民たちは集落の7割以上の署名を集め、村に残土埋め立ての中止を求めました。その結果、JR東海はこの2つの谷をあきらめざるを得ませんでした。豊丘村では、虻川上流の130万立米の残土置き場が県の指示で白紙に戻されたものの計画は有効とする動きもあり、下流域の住民は危機感を募らせています。

 松川町の生田地区では3か所が残土置き場候補地について、下流域にあたる福与区のリニア工事対策委員会が、これまで、2016年11月、2018年の11月の2回、松川町に対して残土の持ち込みの中止を求めています。住民自ら専門家を招き学習会をして危険性を再確認した結果です。

 松川町の隣の高森町でも、過去に谷を埋めて開発をしようとした事業があって、住民の反対により中止させたことがありました。最近、町長が、谷を埋める工事は技術的には可能だが住民に反対された経緯があるので谷を埋めるとはできないと発言しました。被害を受ける地元選出の町議が議会で軽率な発言と抗議をした結果、町長は高森町では公共事業に活用する以外に処分先としてリニア残土を受け入れることはしないと議場で明言せざるをえませんでした。

必要のない中間駅に翻弄される市民と飯田市政

 中間駅周辺では、用地交渉にあたる飯田市は、駅周辺整備計画を優先し、移転対象者に対する対応が遅れています。代わりの土地を世話すれば済む程度に思っているのでしょうが、駅予定地は、農家は存在するものの密集地です。それぞれの地権者は現在、将来にわたる生活設計をしているわけです。JR東海や飯田市の示す補償と、彼らの現在の生活設計と比較した時、とても間尺に合わないという話もあります。

 飯田市でリニア駅に関連して常に話題になるのは、リニア駅の利用客が1日6800人という数字です。

この数字の算出根拠について、これまで開かれたJR東海や飯田市による説明会では何度となく住民が質問をしてきました。しかし、これまでに納得のいく説明がなされたことはありません。6800人という数字は、リニアが来れば地域が良くなることを示す象徴的な数字です。飯田市の説明らしい説明はこうです。シンクタンクが出した数字と長野県が出した数字とJR東海の出した数字が大体6800人程度でそろってるから妥当ということでした。担当職員のなかでも、リニアの乗車定員、編成車両数など基本的な数字すら知らない人もいる現状では、リニアが地域にもたらす効果など、誰も分からないというのが本当のところでしょう。そのようななかで、飯田市が住民に一大決心を迫るというのはあまりにも無責任です。

 2013年にルートが決まってからすでに5年、移転対象者には高齢者もいます。中にはともかく話を早く進めて欲しいという方もいますが、飯田市の対応は遅々として進みません。また、今さら新しい場所に移って何年生きられるのかと考えると暗澹たる気分になるという方もいます。実際、思い悩んで体調を崩した方もいます。ある移転対象者は、「父を赤紙一枚で戦争で失い、今度は祖先から受け継いで守ってきた農地と住宅をJRの都合で出せと言われても納得できない。納得がいくまで、私は立ち退かない。」と意志を固め20数名の仲間と学習会を開いています。

 飯田市上郷黒田地区では、どこをトンネルが通るのか明確にされていません。30mより深いので、地上の中心線測量はしないとJR東海は言っており、地域の説明会で了承を得るが、個々の地権者に話はしないと言っています。明らかに所有権の侵害です。これについて飯田市も長野県も何も言いません。

 JR東海は地域の説明会では、住民の皆さんが納得できるように誠意をもって進めると言うのですが、説明会で話したからと、直接かかわる住民に断りもなく中心杭や幅杭を打って進めてしまいました。JR東海は、国策だから反対しても強制収用があるぞとにおわせながら進めています。

地域の未来の展望が見いだせない行政

 リニア推進派でさえおどろいたのは、後出しの、リニアの鉄道施設に送電するために、中部電力が超高圧変電所と全長約15㎞の高圧送電線を伊那山地に新設することです。また、3ヵ所、総面積12ヘクタールのガイドウェイ組み立てヤード。すべて優良農地を潰します。後継者に悩む農家にとってはありがたい話でないと言えなくもないのですが、農地の持続や後継者の問題は、本来、意欲をもって農業が続けれられる施策によって解決されるべきです。行政は場当たり的に、ヤードの跡地に工場や企業を誘致しようとしています。しかし、松川町の場合、農振除外の可能性がないことが判明し頓挫しかかっています。JR東海としては、ここは20万立米の残土も置けるという思惑があった場所です。

 道路改良そのほか、これまでに完了しているべき事業を、リニアの工事を利用してやることは、そもそも住民の当然の権利がこれまで無視されてきたことの現れです。それが首長の行政手腕のように評価されることは異常というしかないと思います。飯田市は小学校のトイレ改修など住民に密接な事業費を削り、リニアのために17億円も積み立てました。今夏、県知事選では「リニアよりクーラー」のキャッチフレーズが出されました。

必要なのは若者、バカ者、よそ者の声

 人口減少社会に向かって、地方創生だとかIターンとか叫ばれています。大鹿村をはじめ、伊那谷では数十年以上まえから、この土地が気にいったと都会から移り住む人たちがいました。すでに、地域に根付いた方もおられます。リニアどころか高速道路すら開通する以前の話です。彼らがなぜここに来たのか、彼らはリニアについてどう考えているのか、耳を傾ける必要があると思います。 (終)