更新: 2017/12/24

 ストップ・リニア!訴訟ニュース第9号が発行されました。以下、HTML版を掲載します。
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ストップ・リニア!訴訟ニュース

第9号 2017年 12月15日 発行 リニア新幹線沿線住民ネットワーク

~第7回口頭弁論~愛知の原告が意見陳述~

 11月24日午後2時30分から、東京地方裁判所103号法廷で、ストップ・リニア!訴訟の第7回口頭弁論が開かれました。開廷前の午後1時15分から、地裁前で集会が行われ、関島保雄弁護団共同代表、川村晃生原告団長が第7回口頭弁論の意義や決意を表明、意見陳述をする川本さんと大沼さんが法廷に臨む意気込みを述べました。今回も原告、サポーターや支援団体の人たちが地裁にかけつけ、143人の方が100枚の傍聴券を求めて長い列をつくりました。(第一回から7回連続で抽選が行われたことになります)


 口頭弁論終了後、午後4時30分から衆議院第一議員会館で,リニア訴訟第2回シンポジウム『リニア新幹線~隠された真実』を行い、130人が参加しました。パネラーとして、環境経済研究所代表・上岡直見さん、環境地盤研究所所長・徳竹真人さん、リニア訴訟弁護団・山下潤さんの3人が専門分野か ら見たリニア新幹線の隠された真実について発言しました。

 上岡さんはJR東海の「東京~名古屋が通勤圏になる」ことについて「東京などへのリニアによる通勤客は現状の0.4%程度の増加にとどまる」と述べ、「JR東海の見積もりは非現実的だ」と指摘しました。

 徳竹さんは、数多くの実地調査を踏まえ「南アルプスは毎年4ミリ隆起している。トンネル工事には地下水の異常な出水や山はねなどの難関があり、丁寧な調査と長期のモニタリングが必要だが、JR東海の計画は内容も方法もまやかしだらけだ」と批判。

 山下弁護士は「これ迄と走行方式が全く違うリニア新幹線を全幹法で認可するのは誤りで、母法である鉄道事業法による審査が必要だ」と強調しました。

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1月19日(金)第8回口頭弁論
午後1:15東京地裁前集合

準備書面について樽井直樹弁護士

 11月24日の第7回口頭弁論期日に、原告側からは3つの準備書面を提出しました。このうちの準備書面11が、リニア中央新幹線の建設工事、運行開始により愛知県で発生することが予想、懸念される環境への影響、被害について主張したものです。

 この準備書面は、JR東海が実施したリニア新幹線の環境影響評価準備書【愛知県】(2013年9月)に対して、愛知県知事が表明した意見(2014年3月)、これに先立って沿線である名古屋市と春日井市の市長が表明した意見を踏まえ、環境影響評価書【愛知県】(2014年8月)の問題点を指摘したものです。

 準備書面ではまず、リニア中央新幹線は、全幹法に基づく工事実施計画の認可時点では本線や駅の位置が決定されるにとどまり、詳細な事業計画・工事計画はその後に策定されることとなっているため、環境影響評価の段階では、環境に及ぼす影響を把握するために必要な予測条件が十分に示されず、環境保全措置の内容やその効果も具体的に記載されないという、およそ環境影響評価に値しない内容になっている、ということを指摘しています。その上で、愛知県の工事の特徴として、名古屋ターミナル駅周辺での大規模な開削工事、大深度地下を掘削することに夜環境影響の未解明性、大量に発生する残土による環境影響などを指摘しています。その上で、大気質・騒音及び振動、微気圧波及び低周波音、水質、地下水・水資源・地盤沈下、土壌汚染、日照阻害、文化財、動物・植物・生態系、廃棄物などの各項目について予想される被害を整理して述べています。

訴訟原告団ホームページを開設しました
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原告 川本正彦さんの意見陳述 要旨

リニア新幹線工事で亜炭鉱跡の陥没が起きる危険性

 私は、愛知県春日井市に住む原告の一人です。

 愛知県内では、岐阜県との県境から名古屋駅まで25キロに大深度地下トンネルを利用してリニア中央新幹線が作られます。春日井市内を縦断する17キロ区間には、山岳非常口と保守基地が西尾町に建設され、都市部非常口が坂下町、神領町、勝川町の3ヶ所に建設されます。

 この事業に対する春日井市民の最大の不安は、亜炭鉱跡の下にトンネルが掘られることによる陥没です。

 亜炭鉱跡は坂下非常口から東名高速道路までの3キロ区間に広がっています。この亜炭鉱跡があるリニア計画路線上には春日丘中学・高校、中部大学があり、緑ヶ丘住宅と不二ガ丘住宅には2800人が生活をしています。


出川町「前平ちびっこ広場」陥没

 2015年2月にリニア路線から50mの中部大学近くで深さ2m直径2mの陥没が起きました。1ヵ月後の3月15日の朝には出川町の「前平ちびっこ広場」のブランコの根元で、深さ2m直径5mの陥没が起きました。「ちびっこ広場」は小学生の通学の集合場所になっていましたが、幸い陥没が日曜日だったため学童は事故から逃れることができました。

 「ちびっこ広場」は以前、出川炭鉱の立て抗口があった所でリニア路線までの距離は120mです。ここから180m南のダイカネ技建(旧芝炭鉱会社本社跡)の前に芝炭鉱の立て抗跡が残っています。坑口は小石で埋められていますが、絶えず地下水が湧き出て側溝に流れています。10年前には膝の高さまで湧き出ていました。この立て抗の深さは53mあり、そこから亜炭層に向かって横に坑道が掘られています。現在、坑道の中は地下水が充満しており安定を保っていると云われています。この坑道の下11mにリニアトンネルが作られると、坑道の中の水が抜けて陥没がおきる恐れがあります。また、リニアが走行するときの振動で坑道が陥没するのではと危惧されています。

 JR東海は2014年の環境影響評価書で亜炭抗掘削跡に関する文献調査をおこなっているだけで、国にも亜炭の鉱区図は残っていますが、地下坑道の記録もありません。

 ボーリング調査も6箇所おこなっただけです。これで亜炭鉱坑道の詳細を把握していると言えるのでしょうか。

 工事の際には「トンネル掘削時にはトンネル前方の空洞を調査して空洞があれば必要に応じて前方からの充填工法を行う」といっていますが、昭和55年に高蔵寺町の小吹公園起きた陥没で充填工事が行われましたが地下の空洞状況が把握できず、2年で終了して空洞は地下に残ったままになっています。

 JR東海は「シールド工法で施工するため地盤沈下は発生しない、地上部の家屋調査は必要ないものと考える」といって亜炭鉱跡があるリニアルートの環境影響保全調査を行っていません。

 私たちは「陥没が頻繁に起きている亜炭鉱跡の地域になぜ、トンネルを計画したのか」との問いに対しても「5キロおきに非常口を作るのにまとまった土地を設定してルートを決めた」と述べました。このように、リニア特有の直進性とトンネル構造は、自然環境・生活環境をも配慮しない計画になっています。

 2017年8月には首都高速道路横浜北線でシールド工法による地盤沈下が起きています。このことからリニア新幹線のトンネル工事で亜炭鉱跡が陥没するではないかという住民の不安は、日増しに大きくなっていることを強く訴えます。

 次に春日井市民が危惧しているのは、リニア工事に伴う直接的な生活環境侵害の問題です。

 山梨実験線トンネルの笛吹市では3キロの範囲で井戸水の枯渇が起きました。発生土運搬ダンプで道路の損傷が起きています。

 私たちはJR東海に住民の生活環境を守るために、「深夜3時までの工事はやめてください」「リニア路線3キロの範囲の井戸水の状況を調査してください」「環境保全協定を自治体・関係住民と締結してください」など住民にとって切実な内容の30項目にわたる申し入れと協議をおこないました。

 2014年に行われた事業説明会では「深夜3時までの工事」についての説明は一切なく、2017年の坂下非常口の工事説明会で初めて明らかにされました。住民から「なぜ深夜3時まで行うのか」との質問にJR東海は「非常口の工事はトンネル工事等に含まれて環境影響評価に記載をしている。平成39年に完成させることを守る」と説明しています。しかし環境影響評価書には非常口の工事はトンネル工事に含まれるという記載はありません。非常口での深夜工事の環境影響評価も行われていません。JR東海は住民にうその説明をしています。また「特定作業85デシベル、環境基準45デシベルを守ってゆくので影響が無い」といっていますが、これで生活環境が守れるのでしょうか。住民の健康よりも工期を優先して進められています。

 非常口の工事では、生コンの打設が月に1回、計19回行われます。朝の7時から19時まで600台、1分に1台の生コン車が非常口に集中します。周辺の道路は、今でも朝から夕方まで渋滞が起きています。生コン車でさらに渋滞が悪化します。私たちは「2キロの範囲内に生コン工事予告の立て看板を立ててほしい」「生コン車にも工事車両の標識を付けてほしい」と要望しましたが、「ヤード入り口の看板で周知できる」「生コン車は同じ車両とは限らないので標識を予定していない」と真摯な返答はありませんでした。環境保全協定の締結を求めましたが「坂下工事説明会で配布した資料に基づいて守ってゆく」「シールド工法はトンネルに地下水が入らない工法なので地下水への影響はない」と、まともに答えません「何かあれば工事事務所に連絡をいただきたい」と終始、繰り返すばかりでした。このようにリニア事業は、十分な環境影響対策もしないまま、住民の声を無視して工事を進めています。

 世界に例を見ない品川・名古屋間の286キロの86%もの長大なトンネル工事は、自然環境と生活環境を破壊することを避けて通ることはできません。リニア新幹線工事の中止を求めて私の意見陳述を終わります。

原告 大沼淳一さんの意見陳述 要旨

排出土に含まれる天然由来物質による環境汚染の可能性

~美濃帯掘削で過去に起きた環境汚染事例~

 私は、1971年から36年間にわたって愛知県公害調査センター(後に愛知県環境調査センターと改称)で、主として水質汚染に関する調査研究を続けてきました。この経歴の中で調査に関わった美濃帯掘削によって発生した天然由来物質による複数の環境汚染事例について述べます。

1.犬山市におけるカドミウム汚染米発生事件

 1973年に犬山市池野、楽田、羽黒地区においてカドミウム汚染米が発生し、愛知県環境部は原因究明調査を行いました。周辺に工場はなく、汚染原因として考えられるのはこの地域の丘陵部で操業している採石場だけでした。私たちは数度にわたって採石場に立ち入り調査を行い、岩石試料や場内のたまり水や沢水の採取を行い、岩石については粉砕して溶出試験を行いました。それによって、溶出水が強酸性を帯びていてカドミウムや鉛などの重金属を含有していることが判明しました。原因は、岩石中に存在する成分が水と空気と反応して、硫酸を生成し、硫酸が重金属類を溶解するということがわかりました。岩石は主として堆積岩の一種であるチャートであり、真っ黒に呈色しているものが硫酸や重金属をたくさん溶出する傾向があることがわかりました。硫酸を生成したのは黄鉄鉱であり、黒色のチャートは重金属類の硫化物を多く含有している岩石です。

2.犬山市における斑状歯発生事件

 カドミウム汚染米事件の10年ほど前に、この地域では斑状歯発生事件が起きていました。簡易水道水に含まれる高濃度のフッ素化合物により生じるエナメル質形成不全症です。原因はホタル石とされ、この地域の簡易水道は廃止され、犬山市の水道が引かれました。


美濃帯

3.東海環状自動車道トンネル掘削残土から水質汚染事件

 2003年4月26日、久々利川水系新滝が洞池に放流されていたマス・アマゴ約1000匹の斃死事件が発生しました。この時の池の水は透明度の比較的高い異様な青白色を呈していました。翌々日、岐阜県環境課および可児市環境課などによる現地調査の結果、上流に設置された国土交通省の直轄事業である東海環状自動車道建設で可児市が富士カントリーから借地して建設した施設・ストックヤードに2000年9月から2003年4月までに搬入された88.7万立方メートルの残土から強度に酸性をおびた浸出水が久々利川に流出していることが判明しました。さらに、その後の調査で、この酸性浸出水は硫酸酸性であること、カドミウムなどの有害重金属が含まれていることが明らかになりました。ストックヤードの地中で黄鉄鉱と酸素と水の化学反応が起きて硫酸を生成し、周りの重金属を溶解して高濃度のアルミニウムが、新滝が洞池に流入したのです。池の水が入浴剤のような青白色を呈したのは、高濃度のアルミニウムが池の水で希釈されて起きたレイリー散乱現象であったと考えられます。

 第2次世界大戦中は、美濃帯で銅やマンガンを掘るための鉱山がありました。こうした問題のある地域を、こともあろうに国土交通省が直営で行った道路建設工事で安易に掘削し、何の対策もとらずに残土を谷間に埋め立てた罪は大きいと思います。近年重要視されている地理学情報システム(GIS)を主管しているのは国土交通省自身ではなかったでしょうか。
30年前に犬山で起きたことが繰り返されてしまいました。

 すでに述べたような化学反応の結果として酸性を帯びてカドミウムや鉛、銅、亜鉛などの重金属類を含有した浸出水が浸みだしてくるのです。防災対策として設置されていた2本のコルゲート管から排水されてくる他に、ストックヤード基部埋設管から排水されるもの、ストックヤードの下流にある調整池の底から湧き出てくるものもあり、その多くがpH3~5(最悪の時の値はpH2に近い)の酸性を示し、重金属類を含有しています。これらの浸出水は水処理プラントで処理されては調整池下流に放流されています。いまだにストックヤード地下で起きている状態が把握されていないため、いつまで続くかは誰にも予測がついていません。

 現在稼働中の水処理プラントは、これまでに2回の事故を起こしています。2004年2月に暴風によって電源が切れ、酸性浸出水が無処理で調整池に流入しました。 2006年3月、今度は水処理プラントのpHセンサーが故障して、処理水の中和がされないままに汚染水の放流が行われてしまいました。国は数10本のボーリング調査や水処理施設の建設と稼働のために税金を投入しましたが、総額は10億円を超えるものと思われます。

 地域住民からは汚染土の全量撤去要求がなされていますが、国土交通省はそれに応じることが出来ず、事件発生から14年間を経ても問題はまだ解決していません。住民と国交省の話し合いは年に1~2回開催される「新滝が洞池水質異常に関わる保全対策協議会」で行われています。

4.超深地層研究所(岐阜県瑞浪市)地下水に水質基準超過 ホウ素及びフッ素を含有している。

 超深地層研究所が高レベル廃棄物の地層処分の研究をするために地下500mの穴を掘ったところ、途中で断層帯にぶつかり、大量の地下水が吹きだして環境基準を超えるフッ素とホウ素が含まれていました。その処理のために大きな処理施設を建設せざるを得なくなり、高額のランニングコストをかけて運転しています。フッ素とホウ素の水処理は化学原理的に大変困難なのです。

5.結語

 以上述べてきたように、美濃帯を掘削することによって、様々な水質汚染事件が起きているにもかかわらず、JR東海の環境影響評価書ではほとんど記述されていません。このような汚染が発生しないようにするためには、工事段階で細心の注意を払い、的確なモニタリング体制を構築しておかなければなりません。

 なお、環境影響評価書に関する春日井市長意見の中で、美濃帯が掘削されようとしている同市西尾町における黄鉄鉱由来の水質汚染を危惧している旨の記述があることも付言しておきます。

愛知県知事意見事業計画及び工事計画要旨

 路線やその他の付帯施設の位置・規模等の事業内容の具体化に当たっては、当該施設等からの環境影響をできる限り回避、低減すること。その検討に当たっては、対象事業実施区域及びその周辺に存在する以下の地域についても十 分考慮すること。
・優れた風景地であり、希少な野生動植物種が生息・生育している可能性のある愛知高原国定公園周辺
・地域に特有の動植物種が生息・生育している東海丘陵の小湿地群
・春日井市東部地域の亜炭の採掘跡

また、事業内容の具体化の過程における環境配慮に係る検討経緯及びその内容について、わかりやすく示すこと。

春日井市長意見土壌汚染について

 建設発生土の再利用について、建設汚泥や有害物質を含む残土、酸性水やアルカリ水を流出させるおそれがある残土が再利用されることがないよう、発生源者として発生土の性状を十分に把握し、再利用者に情報提供すること。

 過去に、岐阜県内のトンネル工事掘削土処理場から黄鉄鉱を含む美濃帯を掘削した土砂を起因として、硫酸等の酸性水や溶出した重金属が流出した事象が発生しているため、市東部地区の美濃帯地層の掘削土砂により、同様な事態が生ずることがないよう十分に調査、対策を行うこと。