提訴1周年記念シンポジウム (3)

更新:2017/06/29

パネル討論『真実を隠してリニアを進める闇に迫る』

発言者、敬称略

行政訴訟について

・(川村)行政訴訟の選択は良かった。なぜ国がひどい事業計画を認めたのかを問題にすべきだから。この国の政治風土の問題。大規模開発を認可することに問題がある。JR東海を相手にした民事裁判ではそこが入らない。全国に知らせる意味でと当初は思っていたが。 公に語られる場を確保した。谷口氏も場の確保ができたことは良かったといっていた。

・(斉藤)行政訴訟も厳しいばかりではない。住基ネット問題では、5~60件の訴訟の内、金沢地裁、大阪高裁で違憲判決がでている。その後のマイナンバー制度を遅らせた効果はあった。政府にそれなりの配慮をせざるを得ない状況にした。

・(関島)原告適格とか裁量権など行政訴訟には難しい問題があるが、民事でやると地域ごとに分散してしまう可能性がある。環境問題や人格権で差し止め訴訟の可能性もあるが、例えば、大鹿の住人が飯田支部で差し止め訴訟を起こしたとしてマスコミがどれだけ取り上げるか。地域の政治状況の中で裁判を起こすことにメリットがあるかどうか。裁判を大きく取り上げ、国策としての全体の構造を国民に広く訴えていかないと、この事業は簡単には止まらない。沿線住民の力をまとめて東京で提訴するのがマスコミの取材の機会も増える可能性にもかけ行政訴訟を選んだ。

・(五十嵐敬喜)行政訴訟の一番の問題はほとんど勝ち目がないこと。辺野古の最高裁判決など見ると理屈を超えたところがある。裁判所と国側代理人が一緒になっている構造がなかなか破れない。環境問題として突き詰めた時、行政訴訟の構造をどしても変える必要がある。行政訴訟こそ裁判員制度を取り入れるべきである。国民が裁判所に入って権力を監視する。行政訴訟に裁判員制度を取り入れることを国会で論議すべき。

ジャーナリズムの役割

・(川村)闇に迫るのはジャーナリズムの役割だが、ジャーナリズムの健全性が無くなっている。期待しているのはフリーのジャーナリスト。

・(樫田)リニアに関わっているフリージャーナリストは3~5人しかいないと思う。原発について報道が多いのは事故があったからだが、事故が起きてからでは遅すぎる。事故が起きる可能性はリニアでも見えている。それを食い止めるのが肝心。

インフラ輸出、責任と受忍論

・(川村)インフラ輸出は政界、財界で大きなテーマと思う。

・(橋山禮治郎)インフラについて誰がやるのかの責任問題がはっきりしていない。三菱がカリフォルニアの原発で事故を起こしもめているが、政府は知らん顔をしている。インドで原発を売り込んでいるが、事故があればメーカーの責任と政府は逃げるはず。日本の信用が失われる。リニアでも責任の問題を明確にしてから進めるべきだ。現地報告は裁判担当者に状況を分かってもらうために絶対に必要。今後は制度、政策決定の意思決定の仕方、これのおかしい点をつくべき。国民がおかしいと共鳴するにはそれが必要。リニアでは総括原価方式による査定が全く考えられていない。電力や鉄道では普通行うものであるのに。リニアでは行われていない。話が違うという状況が必ず出てくる。これは急所として押えるべき。残土処理を止めれる制度が必要。長野県知事がJRと直に向き合い、ここへは残土を置くなと言える気力が必要。地元の権力が住民の立場でJRに言えるという重要性がある。

・(川村)事業の行き詰まりの時責任の問題がはっきりしないのがこの国の問題。前の戦争責任の問題もしかり。日本人は責任を取らなくても良いという精神風土ができているのではないかと思う。 無責任が美徳のように思われてきたのでは。

・(斉藤)責任を取らない代わりに重視されるのが、受忍論。国民は我慢しろが法廷でも出てくる。東京空襲では、軍人恩給に比べ被災者への補償がないが、裁判では、戦争でみな大変だったのだから皆等しく我慢せよとなる。子供騙しの理屈を国が言うことが通る。 五輪、万博は1960年代の夢をもう一度である。国土強靭化論の京大の藤井教授は、これはナショナリズムであり、一つ一つのイベントの意義が問題ではなく国民が一緒になって騒ぐのが大事だといっている。くだらない理屈だが、その通りのことがやられている。それによる犠牲は受忍論でごまかす。これをどうにかするのがジャーナリストの仕事。

トンネル残土

・(川村)発生土の問題について関島さんはどのようにお考えになるか? 首根っこを押さえる一番有効な手段と思うが。

・(関島)発生土の置き場がなければトンネルは掘れないので、彼らにとってはアキレス腱。沿線の自治体はリニアに賛成であるので、積極的に候補地を探して協力しているというのが実情だ。ここを潰していかないと、この運動そのものもだんだん・・・うと思う。長野県の場合、豊丘村で、住民の反対でいくつかの候補地が潰れた。潰しきれるかが、逆に言えば、われわれの運動体が、天野さんのところで応援に入ったりして、残土の危険や環境破壊についてもっと宣伝して、潰していかないと既成事実になる。今が大事なところになると思う。長野県は今必至だと思う。南アトンネルが掘れるかどうかはこの計画の山だ。応援の基盤を作ってもらいたい。

・(川村)発生土の問題は私たちが最も戦いやすい場面だと思う。横に繋がりながら各地の情報を交換しながら有効に使っていけたらと思う。発生土の問題も含め、アセス自体をどう思うか意見を聞きたい。

環境アセスメント

・(礒野弥生・東京経済大、行政法、環境法) アセスには計画段階アセス(戦略的アセス)と実施段階アセスがある。リニアは実施段階アセスだがこれだけ広域なところをいっぺんにやった例はないのではないか。実施段階アセスは、事業計画がもっと具体化されている必要がありそれが普通だ。それがおかしいことになっている。残土を含め実施段階アセスをするべきで、残土置場が潰れていくということがあれば、アセスのやり直しが本当だといえる。ただし、辺野古の最高裁判決ではやり直しの必要はないとされた、ただし今回はその前のアセスがあまりにも杜撰というのは住民の意見を聞く体制になっていなかった。情報収集としての体をなしていなかったといえるのではないか。本来的な要件を満たしていないのではないか。環境裁判については中身にもっと入ることさせないといけない。諸外国では環境裁判所がある。もっと中身に入らせるように戦略を練る必要がある。よりネットワークを広げ環境裁判はどう参加させていくかということ。参加の問題としてきちんと参加させていくこと。きちんと意見の言える条件を作らなければ、アセスの手続き的要件を欠いているという点を追求すべきと思う。

・(辻村千尋、日本自然保護協会)リニアのルートは最初から決まっていた。現行法の手続きでは発想が違う。JR東海は広い幅から狭めていってここが影響が一番少ないというロジックでやっている。最初から位置は決まっていたはずとすれば、アセスの理念から言えば、ここを通さざるを得ないので、ここでこういう影響評価をさせてください、猛禽類ではあり得ないころだが、コンディショニングを使わせてください、という書き方になるはず。事業者としてやるべきことが何かということで、コンディショニングという技術は確立されていないので、実際の工事が始まるまでの5年間でコンディショニングの技術を確立させる努力をするのでここをやらせてくださいという風にならないとおかしい。やり直し条項がないので、むずかしいとは思うが、環境影響評価をやり直すべきだと思う。それは自然保護協会として環境大臣に意見として環境影響評価法の改正案を出しているので、そういうことも続けていかないといけないと思う。土砂の件について、去年9月に、世界自然保護会議があって、IUCNの会議、埋め立て土砂といっているが、異なる生物生物地理空間を越えた土砂の移動は止めなさいという決議を出してもらった。事例としては辺野古だが、意図としてはリニアがはいっている。長野なら長野で処分せよということ。長野で受け入れなければ、どこかほかの地域、例えば極端な話としては土砂の足りない辺野古へもっていくという話につながりかねない。 そういうことがないようにという決議をIUCNでのせているので、長野の残土を岐阜にもっていくというようなことになったら、IUCNで決議が出ていると主張できるようにやっていた。種の保存法が改正された。絶滅危惧種の国民提案制度が法定化された。同時に、環境省が答えているが、生息地保護等保護区の提案も受け付けるようになる。科学委員会で判定する。地域で絶滅危惧のもののリストを作ってそれを種の保存法の危惧種に指定するように提案をしてください。すでに指定種になってるのであれば生息地保護区の提案をしましょう。これを環境省にぶつけてください。こんど立ち上げる科学委員会で、今の中間審とちがい、研究者が判断するので妥当であれば生息地保護区にすべきという答申が出るはず。そういう制度も使えってもらえれば。

・(今井、くまもり協会)獣害が起きているのは、他に理由があるのかも知れないが、生息地域が無くなっているからなのに、個体数調整が行われている。前回、山梨の意見陳述の中で実験線の工事のために森の中の表土の水分が失われのでイノシシやシカが出てくるようになったという話があった。リニアが286㎞に作られたらその沿線の生息地もどれほど失われるかわからないと思う。熊森協会はリニア市民ネット大阪とやっているが会員のなかにもリニア問題について理解してない方がいる。リニアに取り組むのはまさに熊森の問題と思っている。

リニア推進一色のJR東海

・(成田、JR東海労)責任論から言えば、労働組合にもかなりの責任があると思っている。そういうわけで奮闘しているが、残念ながら、リニア反対を表明するような労働組合ですから、葛西路線によっていじめられており少数を余儀なくされている。そういう所で闘っている。JR東海の中ではリニア推進一色で進んでいる一方で、絶対ペイしないリニアを推進するために、かなりのコストカットがされている。新幹線で言えば、検査の周期が延ばされ、かなりの人員が減らされている。本体でも減らされているが関連会社の労働者にもかなりの負担を強いている。例えば、新幹線の清掃をする会社の労働者とか、部品の清掃だとか加工をする下請けの労働者にかなりのしわ寄せがいっているというのが現実だ。来年の3月のダイヤ改正では、新幹線の車掌の乗り組みが、現在の3名から、2名に減らされ、1名は外注化される。東海エリアの在来線の東海道本線の外注化されている駅を無人化が画策されている。徹底したコストカットの裏側には、安全問題がかかわってくると思う。とくに体の不自由な方たちは駅が無人化されることでどうするのかといったことで会社と交渉をしている。新幹線に乗れば、乗ったとたんに外界とは遮断される。大深度を行くリニアではその度合いがもっと増す。その社内の安全問題はどうなるのか。3.11の時、痛切に感じたのは、地上を走る列車でさえ、一旦、止まってしまうとそこからお客様をどう誘導するのかということがなかなかできなかったという現実がある。一昨日、東海道新幹線が停電事故で6時間近くとまった。これも地上だが、ここでも、お客様を退避させ、安全に誘導するということは、なかなかできなかった。こうしたとところを、われわれは問題にしていかなければならないと思っている。われわれはこの裁判闘争を皆さんと共に闘って勝利することと同時に職場に鬱積する声を大きなものにまとめあげる、御用組合にいる人たちにも、そういうことを自覚させ共に闘う仲間にすることが必要だと考えている。

裁判の今後

・(川村)今後の裁判の方向について関島さんの方からお願いします。

・(関島)この次は9月。今は各地域ごとに特徴のあるリニアの状況を扱っているが、本当はこれだけやっているわけではないが、各地の状況を知ること、各地の深刻な状況が進みつつあるし、逆に地域の皆さんがこの裁判で発言したりして頑張っていく側面もある。静岡は大井川の源流で人の住んでいるところではないが、下流に清水市とか島田市とかがあり、大井川は水道水とか農業用水とか様々の用途の水の水源になっている。この大井川の水がトンネル掘削によって毎秒2トン漏れることをJR東海は認めている。これがきちんと回復できるのかどうか。源流地域に約700人の作業員が泊まり込む作業所が作られる。何年間も作業員が泊まり込みながらトンネル掘削の作業を行う。そういう人々の生活雑排水をきれいな大井川の源流に流れ込んでいく。JR東海はきちんと処理して流すといっているが、そんなものできれいになるのかどうか。今は人が住んでいない地域なので非常にきれいな地域である。静岡の場合、15㎞の導水トンえるを掘って、水をもとへ戻す、15㎞下流の地域に毎秒2トンの水を戻すといっているが、70%ぐらいしか戻らない。自然豊かな秘境の大井川の自然が壊されようとしている。巨大な工事が、導水トンネルを含めて、それから360万立米の残土を上の方の燕沢の河川敷に積み上げる。高さ50m、幅300m、長さ600mという巨大な残土の山ができる。その地域は大崩れといい非常に崩れやすい地質のもろいところで、安全性の問題も含め自然破壊が心配されている。そのあたりを中心に静岡の話をする。そのあと11月は愛知県。その次が東京、川崎を中心に来年の1月まで日程が入っている。橋本先生が話されたように、この事件は、地域の環境の破壊もそうだが、認可の手続きの過程の不透明さ、認可の対象のものの特定ができていないなど含めて議論を深めていきたい。

・(川村)そのあと、証人申請についてはどうなるのか。

・(関島)まだどこまで行くかわからないが、この事件は環境破壊について大きなテーマが一杯ある。水問題、地質、地震の問題、あるいは、希少生物、オオタカとかクマタカ、こういう猛禽類の問題とか、植物も貴重なものがたくさんあるので、そいうものがどういう風に危険にさらされるか、いろんな先生方、専門家のご意見を、証人として出さないとこの裁判は成り立たない。今いろいろな専門家に協力をお願いしている。そういう学習会で議論を深めながら、裁判所に対する意見書なども科学者の専門家の方から出してもらうことも準備を進めながら、来年は、専門家の意見書も踏まえた、環境影響評価の問題点、今日こられた礒野先生とか五十嵐先生とか専門家のご協力も得ながら議論を深めて裁判所に提出していきたい。

「ライバルは、1964年」?

・(川村)斉藤さんが言われたように生き方の問題に帰着すると思うのだが、斉藤さんは、リニアと原発に絡め東京五輪の話もされ大阪万博の話もされ、それは1950年代60年代の蒸し返しであると、いわば高度経済成長という図式をそのまま引きずりながら今も同じことをしようとしている。そこのところでは、われわれの生き方自体が問われてもいる。ずっと高度経済成長の夢を追い続けるのかどうかということを、われわれ自身も一つのテーマとして発信していく必要があるだろうと思う。その根底のところが変わらないと社会は変わらないのだろうと思う。そういうことも含め運動している我々に対する斉藤さんのメッセージはなにか?

・(斉藤)ほかの人はあまりふれないと思い、個人の生き方の問題を強調したが、自分だけがそうできればよいとは思ってはいない。公共性とか国の安全保障まで考えてものを言ってるつもりだ。原発の問題、辺野古の問題とかあるが、それらは、そこに住む住民、そこに住んでいなくてもそこに関わる日本に住む全員、土地土地の自然、あらゆる要素が盛り込まれているテーマだと思う。原発とリニアのショールームと言ったが、そうなったら日本列島は企業が根拠とするためだけのものであり、そこに住む人はたまたま居させてもらっているけれど、それのじゃまにならないようにしていればよいというだけの存在になっていしまう。これは企業にとっては良くても、日本という国にとっても、大きなマイナスだと思う。リニアの問題をちゃんと批判し、その住民の生活を守っていくということは、社会全体を守ることでもあり、国を守ることでもあり、また、インフラシステム輸出のような、これは援助の名のもとに行われるのだろうが、それにより原発を売り込まれる地域、世界の他の国々を守ることにも通じる。非常に大きな意義のある裁判だから、それぞれ自分の人生のために、それから社会のためにも、ぜひお互い頑張りましょう。