ストップ・リニア!訴訟・第5回口頭弁論速報

更新:2017/06/24

JR東海:"じゃあ逆に聞きますが、水が抜けて一体誰が損害を受けるんですか?"

 6月23日午後、東京地方裁判所でストップ・リニア!訴訟の第5回口頭弁論がありました。今回は、下伊那の原告2名が意見陳述を行いました。


地裁前集会

 まず冒頭で裁判長と原告代理人、被告代理人の間で、われわれではにわかには理解できないやり取りがありました(これについては公判のあとの提訴1周年記念シンポジウムの最初に関島弁護士から解説がありましたので後程紹介します )。次に大町市の金枝弁護士の意見陳述、谷口昇さんの原告意見陳述、米山義盛さん(飯田リニアを考える会代表)の原告意見陳述がありました。今回は3つの陳述すべてでスライドを投影しました。谷口さんの陳述ではドローンで撮影した空中動画も使われました。今回は速報として、原告意見陳述の原稿を掲載します。


地裁前集会

谷口昇さんの原告意見陳述原稿

 原告の谷口昇です。国土交通大臣が認可した中央新幹線の工事実施計画について、大鹿村の住民として意見を陳述します。

1 私は、大阪で生まれ、大阪で育ちました。子供の頃から、親に山や田舎に連れて行ってもらう度に心が元気になるのを感じ、自分はどうして街に生まれてしまったんだろうと思うほど、自然や田舎の生活を好んでおりました。

 私は、平成20年に初めて大鹿村に来ました。目の前に聳えたつ赤石岳連峰やこの奥地で生き抜いている人々の姿が心に焼き付けられました。その後、街の生活を一層味気なく感じておりましたが、平成22年4月に良い機会に恵まれ、大鹿村釜沢地区に移住することが叶いました。ちょうど私の移住と入れ替わりに、私の移住先の住まいのお隣に住んでいたご家族が引越されました。平成20年の2月から12月まで、JR 東海が大鹿村の大河原地区にある除山に、住民が三正坊と呼んでいる農地の側から1回目の水平調査ボーリングを実施したため、その騒音が24時間続き、小さな子供さんが夜眠れなくなり、それが理由で引越されたということが後日わかりました。

2 私の移住した大鹿村釜沢地区は、南アルプス山麓にあり、3000m級の山に最も近い集落の一つで、天竜川の上流の小渋川と小河内川の合流地の斜面に10軒が暮らしています。小渋川と小河内川の合流地は狭く深い谷になっており、河原で軽トラがエンジンを掛けてもよく響き渡ります。この山深い釜沢地区には、希少植物や希少猛禽類、クマを始めとする山の生物が多く暮らしております。

 南アルプスは、平成26年にユネスコエコパークに登録されました。ユネスコエコパークというのは国内で付けられた通称で、正式名は生物圏保存地域といいます。生態系の保全と自然と人間社会の共生を目的とした取り組みが行われる場所として注目されております。

 日本人は、山や川、木、動物等の自然に畏敬の念を抱き、信仰対象としてきました。日本人が自然を大切にしてきたことには理由があります。自然から供給された水が人々や森の生命を長く安定的に育んできたことも理由の一つです。南アルプスの深い山に蓄積され、森の養分を含んだ水は、山の各所からゆっくりと湧き出し、天竜川に合流して太平洋に達するまでの間に静岡、山梨、神奈川、長野、愛知にまで流れ、あらゆる生命を育んでおります。私たちは、最上流に暮らす人間として、下流に住む多くの生命に対する責任があります。

3 私は、平成26年に釜沢地区の自治会長に選ばれました。その年にJR 東海が除山への2回目の水平調査ボーリングを実施するということで、釜沢地区の住民に対する説明会が行われました。説明会では、住民から中央新幹線の工事実施計画が自然環境や生活環境にどのような影響を与えるのか、前例のない環境破壊事業を実施することについてJR 東海の考えを聞かせてほしい等の質問が沢山出ました。それに対してJR 東海は、「国が認可した事業なので大丈夫」とか「ちゃんとやります」とか「できるだけ影響がでないようにします」等、漠然とした返答しかせず、「具体的には」と聞いても「まだ解りません」と言うばかりでした。

 また、JR 東海は、釜沢地区の生活水源のすぐ近くに非常口を作ろうとしており、説明会において住民は、水源の水量に関する質問をしましたが、JR 東海の担当者は、逆上して「じゃあ逆に聞きますが、水が抜けて一体誰が損害を受けるんですか?」と言い返し、呆気にとられました。この発言から自然環境や住民の生活に対するJR東海の考えがはっきりわかりました。

 大鹿村の全村民に対する説明会では、JR 東海の担当者は、住民の合意がないとこの事業はできませんと言っておりました。しかし、住民が合意したとは具体的にどのような段階をいうのかという質問に対して、JR 東海の担当者は、JR 東海が住民が合意したとみなした時であると言いました。事業者自身がみなした合意が住民の合意というのでしょうか。

 その後、平成28年11月に突然、起工式が行われることが報道され、村議会の議論も不十分なまま、JR 東海により強引に起工式が行われました。JR 東海が本当の意味での住民の合意を得ることなど考えていないことが証明されたと捉えざるを得ません。 

4 環境影響評価についても、JR 東海は、法に則った手続をしていると説明しておりますが、素人から見ても本当に環境影響評価をしたといえるのか疑問に思う点が沢山あります。

 平成23年に公表された環境影響評価方法書の段階では、駅は5kmの円、路線は3km幅で示されていました。それでは3km又は5kmの範囲で環境調査をしたのかというとそうではなく、実際には、ほぼ路線や坑口を決めてあって、その周囲の狭い範囲しか環境調査を行っておりません。

 また、釜沢地区の除山非常口は、環境調査の結果、当初の予定を変更して設定されたものですが、平成25年の準備書の段階では、他の場所は改変区域から600mの範囲で植生等が調査されていたのに、ここだけは改変区域から200m程度の範囲しか調査されませんでした。その後、平成26年度に長野県知事の意見等を受けて600mの範囲で調査されましたが、その結果を待つことなく評価書は確定し、認可がされております。

 トンネル掘削により生じる残土の行き先についても、長野県を始め各県でほとんど未定のまま環境影響評価が終了して認可がなされております。トンネル掘削が始まる段階になっている現在でも、大鹿村から出る残土の最終的な行き先は決定していません。

 変電所の送電線についても、大鹿村の住民は一貫して送電線を地中に設置することを求めておりましたが、JR 東海は、リニアの変電所にどのように送電線を持ってくるかは中部電力の問題であるとして回答を避けてきました。認可から半年後の住民説明会の中で、中部電力から、送電鉄塔が建ち並ぶフォトモンタージュが示され、送電鉄塔は「日本で最も美しい村」連合に加盟する大鹿村の看板の一つである景観を著しく損なうことが確認されました。その他にも、JR 東海は、指摘された部分を事後調査で対応する旨を述べ、多くの問題点が未調査のまま着工に踏み切りました。もし事後調査において大問題が見つかれば、近隣住民や自然環境に対してどのように責任を取るのか、心配で仕方がありません。

5 大鹿村の生活の基盤となっている道路の交通量についても、大きな不安があります。大鹿村では急峻な地形のため、300万㎥といわれるトンネル掘削の発生土を置ける場所がなく、ほとんどを村外に搬出する計画です。準備書では、大鹿村の生活の中心部である国道152号線と村民の通勤、通学、通院、買い物のための重要な道路である県道59号線を、1日最大1736台もの大型工事車両が通ることが示されました。

 国道152号線沿いには多くの高齢者や子供が暮らしております。保育園、小学校、デイサービス、宅老幼所、高齢者や障害のある方も勤務されている授産所等、村の重要な施設は国道152号線沿いにあり、沢山の人が国道152号線を歩いて利用しております。保育園児の保護者は、ダンプや大型資材車両ががんがん行き交う真横の保育園に子供たちを通わせることについて、交通事故、排気ガス、騒音等の不安が絶えません。その不安に対するJR東海の対応は、警備員を置くというものです。保護者の不安は解消するどころか、さらに増幅しております。住民からJR東海へ国道152号線は工事用道路として使用しないでほしい、小渋川沿いに迂回路を作り、迂回路ができるまで国道152号線には工事車両を通さないほしいと伝えましたが、迷惑を掛けないように使用しますと回答されただけです。住民が迷惑を掛けられているのにJR東海が迷惑を掛けていないと強弁して、それきりにされてしまうことを危惧しております。 

 また、県道59号線には大型車のすれ違い不可能な狭く曲がりくねった箇所が沢山あります。現在2箇所でトンネル新設工事が行われ、5箇所の拡幅改良工事が行われる予定ですが、他にもボトルネックとなる箇所が残されています。 大鹿村は、県道59号線の完全二車線化や国道152号線を迂回するルートを求め続けてきましたが、具体的な計画が決まらない段階で環境影響評価書が確定し、国の認可が下りてしまいました。

 また、釜沢地区に至るには、国道152号線に通ずる更に狭く曲りくねった約6㎞の山道である県道253号線(赤石岳公園線)を通るしかありません。私たち釜沢地区の住民は、この県道253号線を毎日何往復も通って仕事に行ったり通院したり買い出しに行ったりしており、県道253号線は釜沢地区の住民の生命線といえます。

 県道253号線は、軽自動車がすれ違えない箇所や大型工事用車両が通れない箇所があり、現在拡幅工事が行われております。住民が拡幅工事が終わるまで県道253号線に工事車両を通さないでほしいと要望しているにもかかわらず、JR 東海は、拡幅工事途中で工事車両を通してトンネル掘削を始めました。そのため、先日は県道253号線を通ろうとした大型車両が小1時間立ち往生していました。JR 東海は、県道253号線の車両台数を減らすために、釜沢地区唯一の平らな農地に仮残土置き場を設置すると言っております。これでは私たち釜沢地区の住民にとってどちらの拷問がいいですかと聞かれているようなものです。

6 国土交通大臣は、認可の条件として、JR 東海に対し、今後事業の実施にあたって、特に3つの事項の確実な実施を求めたいと述べております。一つ目は、地元住民等への丁寧な説明を通じた地域の理解と協力を得ることです。二つ目は、国土交通大臣の意見を踏まえた環境の保全です。三つ目は、南アルプストンネル等の安全かつ確実な施工です。JR東海は、これらの条件を無視し、自分たちの思うように早く工事を進めたいと考えているとしか思えません。JR 東海が不明瞭な説明しかしない理由は、JR 東海自身も盲目的にこの事業を進めているのか、それとも公表すると都合の悪い事実があるからではないかと思います。 私たちは、先人が大切にしてきたこの豊かな自然環境によって生かされております。この水が抜けて誰が損害を受けるのですかと発言するような事業者、不誠実で無知なJR東海に本当にこの巨大な自然環境破壊事業を任せて良いのでしょうか。この事業の先行きは全く見えません。戦後、日本は、環境保全より経済活動を優先してきました。その間、生活は便利になった反面、沢山の大切なものが失われてきました。自然を感じながら暮らしたい、自然を学びたいと都会から田舎を訪れる若い人が増加しています。このように環境意識や社会の自然に対する態度の見直しが進む現在にこの事業に対する認可を出した国交省は何を考えているのか憤りを感じます。説明にならない説明しかしない、まともに調査する気もない、住民の意見も聞かない、国土交通大臣が出した条件についても全く不誠実な態度を示す、このような事業者が実施する事業は百害あって一利なしであり、即刻白紙撤回すべきと主張いたします。既にJR東海はこの事業のための工事を開始してしまっておりますが、工事が即刻中止され、あらゆるものの命の根源である希少になってしまった自然の傷が浅いうちに止まることを切に祈ります。

 以上

ドローン映像の1コマ。右上:釜沢集落。奥:三正坊。手前:除山斜坑口予定地。手前画面外:釜沢斜坑口予定地。

米山義盛さんの意見陳述原稿

 原告の米山義盛です。私は、長野県下伊那郡松川町に居住し、3年前に長野県の高校の社会科教員を退職しました。年金収入を得ている外に、父親の営む農業を手伝い、7月から12月は桃・梨・りんごの選果場でパートとして勤務して暮らしております。リニア新幹線の工事実施計画には多くの問題がありますが、私は、災害をもたらし、住民の生活を根こそぎ奪う恐れのある発生土の処分について、主に陳述いたします。

1 伊那谷は、昭和36年6月末に「三六災害」と呼ばれる大規模な災害に見舞われました。各地でがけ崩れ、山津波、河川の氾濫が起こり、死者・行方不明者が136名、全半壊家屋が1500戸以上に及ぶ甚大な被害が生じ、250年前の羊満水(ひつじまんすい)以来の大災害と言われました。当時小学1年生だった私も、物凄い風雨と救援の自衛隊へリコプターが来たことを覚えています。 

2 大鹿村へ通ずるトンネル工事が先陣を切って進められようとする豊丘村では、昨年6月に一旦発生土を置くことになった伴野区小園地籍の源道地の2つの沢筋について、沢の直下の住民たちが、三六災害の経験から、「頭の上に金魚鉢を置いて眠るようなもの」と反対の声を挙げました。その結果、住民の不安を払拭できる材料がなかったJR東海は、発生土の処分地としての使用を断念しました。

3 また、豊丘村の本山地籍にも、鬼面山に源を発し、天竜川にそそぐ虻川の支流、サースケ洞の最上流部に位置する本山生産森林組合所有の山林内の谷に、約130万立米の発生土を置く計画があります。JR東海は、この計画に対する環境影響調査書を長野県に提出しましたが、発生土が滑り出す可能性を2次元モデルで検証していた点について、日本科学者会議長野県支部が3次元モデルで検証すべきと指摘しました。また、治山に関連する仕事をしている方の多くは、100万立米という大規模な盛り土により谷を埋めることは、治山の見地からは想定外であると話しています。虻川の下流地域の住民からも、署名を添えた受入れ反対の要請が村に対して出されました。

 その後、本山生産森林組合は、一旦は発生土の受入れを承認しましたが、組合の組織運営が法に則っていないことが判明し、発生土の受入れ承認の決定も無効とされました。

4 私の住む松川町は、リニア新幹線のための施設の設置は計画されておりませんが、町内を流れる寺沢川沿いに、上流から中山丸ボッキ地籍、中山つつじ山線地籍、長峰本洞地籍の三か所を、発生土置き場の候補地として、長野県を通じてJR東海に情報提供しています。中山丸ボッキ地籍、中山つつじ山線地籍、長峰本洞地籍には、それぞれ30万立米、100万立米、490万立米という膨大な量の発生土を置けるとされており、JR東海にとって、大鹿村から出る約300万立米の発生土を置くには都合のよい場所です。

 しかし、先述の「三六災害」では、上記3か所の地籍を含む松川町の生田地区でも至る所で土石流が起き、甚大な被害が生じました。寺沢川の下流域の福与区に住む住民は、三六災害の経験から、上流の谷に発生土を置くことを非常に心配し、リニア工事対策委員会を設置して、松川町に対し、発生土を置かないことをJR東海に求めるよう要請しました。また、福与区のリニア工事対策委員会は、JR東海が示す発生土置き場の計画は、発生土を沢筋に埋めることの安全性に対する住民の不安を払拭する内容であるか検討するため、先述の日本科学者会議長野県支部の意見書を執筆された桂川雅信さんを招いて学習会を開きました。

 学習会において、桂川さんは、生田区の3か所の発生土置場の候補地は、盛土が滑りやすい地形であることを説明されました。盛り土をしても災害のリスクが上がらない方法はあるのかという参加者からの質問に対し、桂川さんは、盛土内に水を貯めないために集水井戸を設け、そこから水平に集水パイプを盛土内に延ばして常に排水する施設を設置し、将来にわたり維持管理すること、地下水位の常時監視をずっと続けることが必要であると回答されました。このような対策を未来永劫継続することは到底できないと思います。

5 また、下條村では、国道151号線沿いの谷が発生土置き場の候補地になっています。村は、谷を埋め立てて平らな土地を造成し、住宅地にするとか事業所を誘致するとかの活用を考えているようです。しかし、この谷には谷筋に沿って断層があり、発生土置き場とすることは大変危険です。

6 阿智村では、ダンプカーの走行が交通事故等の危険の増大を招くとの理由で、谷の上流部に発生土を置く計画を検討しているようです。しかし、それでは現在の危険を将来の世代に先送りすることになります。発生土を谷に置けば将来にわたって災害の危険が残ります。交通事故等の危険の増大も災害の危険の増大も、無用なリニア新幹線のためのトンネル工事が原因であり、リニア新幹線の工事実施計画を断念すればこのような危険の増大は回避できます。 

7 このように伊那谷では、発生土置き場の計画は、住民の反対等により頓挫し、現時点で計画どおり確定した場所は皆無です。天竜川の東側の伊那山地の谷は、風化し易い花崗岩からなる崩れ易い地質です。現在、発生土の最終置き場の候補としてJR東海が検討しているのは、伊那山地の非常に崩れやすい谷や沢ばかりです。水が削ってできた谷や沢を人為的に埋め立てるのは元来危険なことです。JR東海は、災害発生の危険について、10年とかせいぜい数十年という短いスパンでしか考えていないようですが、私たちの生活を維持するためには数百年単位で考えるべきではなかと思います。谷や沢の下流に住む住民は、発生土の埋め立てによって起きる土砂災害を強く危惧しています。

 JR東海は、飯田市下久堅の小林や龍江地区の番入寺西に発生土を置くことをこれから検討するとしておりますが、これらの地籍も下流域に集落があり、発生土を置くことになれば、住民は将来にわたって危険を感じながら生活しなくてはなりません。JR東海自身、谷に発生土を盛土して処分することの危険性は分かっているはずです。

 本当に発生土置き場は確保できるのでしょうか。発生土置き場が確保できなければトンネルは掘れません。トンネルが掘れなければリニアはできません。JR東海は、発生土の活用の見通しや谷や沢に発生土を置く危険性について、計画の立案段階でなぜもっと綿密に検討しなかったのでしょうか。また、国土交通省は、膨大な量となることが確実な発生土の処分方法が盛り込まれていない工事実施計画をなぜ認可したのでしょうか。

8 また、発生土置き場が決まっていないのみならず、発生土を利用して造成された土地の利用方法も未確定です。山梨県内の中央自動車道下り線の境川パーキングエリア南側に隣接するリニア実験線の工事の発生土を埋め立てた土地は、当初計画されていた住宅団地とはならず、資材置き場等の一時的な利用のためにしか用いられていないのが現状です。JR東海によれば、この境川の埋立地に約160万立米の発生土を埋めたとのことですが、境川の埋立地は、曽根丘陵活断層帯の中にあります。京都大学防災研究所の釜井俊孝教授の調査研究により、人工盛り土上の宅地造成地が大地震による斜面変動により大きな被害を受けたことが報告されています。南海トラフ地震が発生した場合、リニア沿線も強い揺れに見舞われると予想されており、この埋立地の崩落が生じないか危惧しております。

9 また、発生土の外にも、地元住民としては到底納得できない問題があります。リニア新幹線の工事実施計画は、JR東海からの説明が直前までなかったり、当初の説明が一方的に変更され、工事の範囲が事実上拡大された部分が幾つもあります。

 まず、飯田市上郷飯沼北条地区の中間駅西側から始まるトンネルは、掘削方法がNATM工法からシールド工法に変更されたことにより、掘削を始める場所が北条地区に変更されました。トンネル工事ヤードや発生土の搬出ルートがどこになるのか、一級河川である新戸川の水路変更、駅周辺の整備、アクセス道路の整備等で、北条地区の住民は気掛かりな日々を過ごしています。

 また、リニア新幹線の工事ルートが発表されたのは平成25年9月でしたが、最近になってJR東海は、豊丘村壬生沢川のそばに新たな斜坑口と工事ヤードを探しています。壬生沢川周辺の住民も、飯田市の北条地区の住民と同様、自分たちの生活に対する工事の影響を心配しています。

 また、大鹿村と豊丘村の2箇所の電力変換施設に電力を供給するための敷地約9ha、容量600メガボルトアンペアの超高圧変電所と総延長約14㎞の高圧送電線の設置計画は、平成27年6月まで地元住民に知らされませんでした。南信地方最大級の変電所である南信変電所の75%の規模を持つこの超高圧変電所は、リニア新幹線のためだけに建設されるものです。

 また、全部で12haに上るリニア新幹線のガイドウェイの組立ヤードが必要であるという話が地元住民に知らされたのも平成27年6月のことでした。ガイドウェイ組立ヤードの候補地はいずれも優良農地です。高森町の候補地は、天竜川右岸の水田開発の歴史を目の当たりにできる、文化的な価値の高い景観を有する地域ですが、その景観が失われます。

 また、これらの設備は、国土交通省の認可の対象となったリニア新幹線の工事実施計画にも記載されておらず、ほとんどは環境アセスメントの対象でもなく、地元住民としては騙されたような気持ちです。

10 リニア新幹線の工事実施計画が着工されておりますが、この裁判により計画そのものの問題点がクローズアップされつつあります。各地で着工されている工事も、それぞれ難題に直面しています。今ならまだ引き返せます。即刻工事を停止してリニア計画を断念し、認可を取り消して下さい。リニア計画は余りに無謀すぎます。現状で飯田から東京や名古屋方面に出かける人は1日約1500人ですが、JR東海も長野県も飯田市もリニアの利用客は6800人になると予測をしています。住民はこの数字の根拠について、具体的に納得できる説明を聞いていません。にもかかわらず、この過大な予測に基づいて駅周辺の整備やアクセス道路の整備が計画され、移転先も十分に確保できていないのに、移転対象者が増えています。

  JR東海は、2027年の完成に向けて、住民の理解が十分に得られないまま工事を進めようとしています。2027年まで残り10年となっておりますが、すでに工事は約1年、遅れております。あと10年で工事を完成させるために、安全よりも進行具合を重視した工事となり、工事関係者や住民の生命、身体に危険が及ばないか大変不安です。また、南アルプスを始めとする貴重な自然に回復不可能な損害を与えるこの計画は、地域住民の生活を無視するものだけでなく、自然への畏敬の念も忘れたものです。国土の保全を第一の任務とする国土交通省は、自然に対する謙虚な姿勢を忘れずに、その破壊に手を貸すような認可はすべきではありませんでした。リニア新幹線のための工事を速やかに止めるよう、裁判所の正しい判断が下されることを求めます。

 以上